約 1,930,463 件
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/103.html
コン……コン。 控えめなノックが、執務室に漂う夜の静寂を打ち破った。 「入りたまえ」 僕は努めてぶっきらぼうに、ドアの向こうの気配へと声をかける。 「て、提督、失礼……します」 おどおどした様子のひとりの少女が、月明かりだけが照らす執務室の扉を開いた。 「い、磯波……です。ご、ご命令により……出頭いたしました」 消え入りそうな声で彼女は名乗り、執務室の入り口で敬礼をした。 僕が黙って頷くと、磯波は真鍮のドアノブを回し、静かに扉を閉めた。 しばし僕は、青白い月の光に浮かぶ磯波の姿をしげしげと観察する。 穏やかな波間を思わせる、三つ編みの黒髪。日々、遠征の任に駆り出されながらも白さを保つ若々しい肌。 膝より少しだけ高い、吹雪型のセーラー服から垣間見える、柔らかそうな太腿――。 普段彼女が足を踏み入れることも、いや、直接的に話したことさえも殆どない僕の部屋に 招かれた彼女は、いつにも増して小さく、儚く見える。兵装が完全に解かれている今は尚更だ。 現に、この部屋の中にいるのは磯波と僕だけだというのに、彼女は一向に僕と目を合わせようとしない。 照明が完全に落とされた執務室の中、磯波の長いまつ毛の奥にある瞳は、内股に寄せられたブーツへと 所在なさげに落とされたままだ。 ふぅ、と僕が大きくため息をつくと、それだけで磯波は細い肩をぴくっと躍らせた。 それでも僕は黙ったまま、磯波に更に視線を注ぎ込む。 「……ぅう」 磯波は、吹雪型が揃って纏うセーラー服の胸元の紐をいじりながら、チラチラと僕を見た。 僕からの一言を引き出そうと、必死のようだった。 海から吹き込む穏やかな風が窓から吹き込み、白いカーテンを揺らす。重たい空気の中、 時が確かに進んでいることを示すかのように。 だが、それでも僕は革張りの椅子に深く腰をかけたまま、彼女をじっ……と見つめたままだ。 磯波は、震えているようにさえ見えた。 「あっ……あのう……提督」 部屋の隅と僕の間を、まるでげっ歯類の動物のように素早く、しかし居場所なさげに視線を 揺らしながら、磯波がようやく唇を開いた。 「磯波に……何かご用でしょうか?」 彼女がこの鎮守府に配属されて2週間。僕は初めて、その声をまともに聞いたような気がした。 それは、本当に女の子らしく、か細く……そして消え入りそうな声だった。 仮に月が雲に隠れていて、磯波の実体が目の前に映し出されていなければ、耳に届いてさえ いなかったかもしれない。 磯波はそれ程までに控えめな声で、ようやく言葉を口にしたのだった。 僕はその声の余韻を耳に感じながら、彼女を手招きする。 部屋に入ってからというもの、一歩たりとその場を動かなかった磯波が、ようやく小股で 執務机へと近づいてきた。しかし絨毯が敷いてあるとはいえ、足音がほとんどしない。 意識的に音を殺しているのだとすれば、どれだけ自分に自信がないのだろうか。 ――もっとも、僕が彼女をこの部屋に呼んだ理由は、まさにそれなのだけど。 磯波は思った通り、執務机の前にたっぷり1メートルの間を取って、僕の正面に立った。 僕からは机を挟んで、ほとんど2メートルも離れていることになる。 「はぁ……」 予想はしていたことだが、僕は思わず2度目のため息をつき―― 「磯波?」 ようやく彼女の名前を口にした。 優しく名前を呼んだつもりが、彼女は身体を強張らせ、両目をぎゅっと閉じてしまった。 言い訳もできず、叱られるのを待つだけの子供のようだ。 「自分がどうしてこの部屋に呼ばれたか、分かっているかい?」 首を縦にも、横に振るでもなく、ますます磯波は体を小さく、固くしてしまう。 僕はほの暗い中、デスクの書類受けに手を伸ばした。 「磯波、配属されてどれくらいになった?」 「えっ?」 「二週間だ」 忠実な秘書艦娘が纏めた数枚のレポートをぱらぱらと捲り、そのうちの一枚を彼女の方へと差し向ける。 「見たまえ」 磯波はまるで危険な生き物にでも触れるかのように、コピー用紙におどおどと手を伸ばす。 暗闇の中では読みづらいのだろう、柔和そうな垂れ気味の目が細められ、書類を走った途端―― 「あ……ぅ……!」 磯波は驚愕とも恐怖ともつかない顔になり、そのまま硬直した。 「それは君の、ここ二週間の成績を纏めたものだが、見てのとおりだよ。残念ながら 、先輩諸氏のような戦績を残せてはいない。遠征にしても、作戦にしても、だ。分かるね?」 「は……はい……」 磯波はがっくりと肩を落としたまま、細い首を小さく縦に振った。 「同じ吹雪型と比較すると、なおのこと顕著だ。どうしてこんなに差が出るんだろうな? ん?」 月明かりのせいでなく、磯波の顔は、真っ青だった。 「あのっ……あの、提督……!」 磯波はレポートを持つ両手を強張らせながら、何かを伝えようと必死だった。 「これは……そのっ、私……」 「それに聞いたところによれば、何度か他の艦娘と衝突しかけたとか?」 意見しかけた磯波を、僕はより強い言葉で一蹴してやる。 「その衝突が原因で隊は陣形を乱し、結果的に燃料と弾薬を海中に失ったそうじゃないか……」 磯波は口を開いたまま、自分の意見を完全に失っていた。息をするのさえ忘れていそうだった。 「あの日は悪天候だったからな。遠征の報告書には、荒天に伴う高波の影響で物資を消失した、 とされていたよ。正式な報告書には、君の不始末はひとつも上がってきていない。言った通り、 あくまで『噂』だ」 磯波は魂が抜けたような、愕然とした表情のまま、何も映ってはいないであろう瞳をレポート用紙に 落としている。提督である僕と会話していることさえ、否定するかのように。 「だが、君の成績を見るにつけ、一度直接に確認しておかねばと思ってね。磯波、衝突は真実か?」 答える代わりに磯波は、よろけるように半歩、後ろに下がった。 「どうした磯波、答えたまえ」 「……う……わ、わた……」 「磯波! はっきり答えたまえ!」 焦れた僕は、少しだけ語気を荒げ彼女の言葉を再び遮った。それだけで―― 「くぅ、 う……」 どこまでも静まり返った部屋に、たっ、たっ……と、絨毯に雫が落ちる音が響いた。 磯波の、涙だった。 磯波は薄い唇を噛みしめ、必死に涙を堪えようとしている。しかしその意志とは裏腹に、 熱い雫が白い頬に幾重もの軌跡を描いては、カーテンを透かす星の光に輝いた。 「それが貴艦の答えか、磯波?」 僕は椅子から立ち上がると、磯波の方へとゆっくり近づいていく。 「その涙が、僕に対する答えだというんだな?」 静かな僕の怒声に、ひんっと磯波が子犬のように鳴いた。 そしてまるで磁石の同極のように、僕が近づいた分だけ離れようとする。 だが、逃がすつもりは毛頭ない。 「どこへ行くんだ」 磯波の細い手首を、僕はがっしりと掴む。 「いや……あっ!」 磯波はレポートを取り落とし、僕から逃れようと顔を背けた。 「その涙が何で出来ているか、分かって泣いてるのか! 答えろ磯波!」 「うぅっ、は、放してぇ!」 「貴艦が目からこぼしているそれは、何だと聞いてるんだ、僕は!」 抵抗しようとする磯波の手を振り払い、僕はもう片方の手で磯波のきれいに編み込まれた おさげを掴み、容赦なく引っ張った。 「きゃあぁぁ!?」 磯波の悲鳴と散らした涙がきらめいて、暗黒の絨毯へと吸い込まれていく。 「提督ッ! うあっ、痛い、いたいですぅっ!」 「まだ『無駄』にする気か、その涙を、あぁ?」 悲鳴を上げるのも構わず、僕は磯波の小さな耳を引き寄せて、息さえかかるであろう距離で言い放つ。 「貴艦が流しているそれは、戦列を同じくしている駆逐艦娘達が運んできた『燃料』だろうが!?」 抵抗する磯波の体から、ふっと力が抜けたのが、良く分かった。 「日々危険な海域を掻い潜り、やせ細る兵站を何とか維持しているのに……何だ貴艦は? 燃料一滴持ち帰れもせず、ロクな戦果も無いくせに、のうのうと補給まで受けて、更に無駄遣いか!」 返事がない中、「ふっ」と僕は小さく鼻で笑い、もう一言。 「磯波……我が鎮守府はね、常に逼迫しているんだよ。燃料も弾薬も……それに鋼材も」 力の抜け切った磯波の腕を放し、僕は頬を伝う涙を指で掬った。人間のそれと同じく、熱い。 「この涙さえ、一滴も無駄にはできないんだぞ?」 言って、朴は磯波の雫を口に含んで見せた。 塩辛く、ほのかに甘い味が舌に広がり、消えた。 「常勝無敗、そんなもの僕は端から求めていやしないさ。だがね、子供のお使いにも劣るような 近海の輸送任務も果たせず、あまつさえ味方に損害を与えてしまうような艦は……僕の手には 少々余ってしまってね」 「あ……あ、ぁ……」 「君の処遇は、試験運用期間の終わりを待つまでもなく決まりそうだ、磯波。貴艦の意向は既に伺ったしな」 「え……?」 顔を背けたままの磯波が、怯えきった表情で僕を見つめた。 「わたし……まだ、何も」 「何を言ってるんだ、貴艦は。僕は確かに『聞いた』よ?」 磯波の細い肩にぽんと手を突き、僕は笑顔で首を横に振った。 「僕の質問に対して、磯波。貴艦は無言だった。即ち衝突の一件は申し開きの余地無し、と。そうだな?」 ただでさえ青白かった磯波の顔から、さああっと音を立てて血が引いていった。 「ち、ちが――」 「磯波、貴艦は最期に正しい判断をした。衝突した艦を修理するために、自ら一肌脱いで――」 「だめっ……提督! い、嫌……いやあぁ……ッ!」 僕の最後通告は、磯波のか細い悲鳴にかき消された。 硬直したままだった磯波の身体が急にがくがくっ! と震えたかと思うと―― ぽたっ、ぱたぼた……っ。 スカートの下から漏れ出した雫が、絨毯に染みを広がらせていく。やがてその波は勢いを増し―― しゅわああ、あああ……。 あふれ出した温かな金色の流れが、湯気を上げながら絨毯へと降り注いだ。 太腿にも幾筋もの細かな流れが至り、紺のハイソックスをしとどに濡らしている。 「うぅっ、うううう~ッ……」 磯波は絶望とも、解放ともつかない声で呻いた。きつく閉ざされた瞼の間からも、まだ涙が溢れている。 僕がおさげを放してやると、磯波は自分の作った水たまりの上に膝を折りへたり込んだ。 まだ全てが出切らないのだろう。細い肩を震わせ、磯波は両手で顔を覆い、すすり泣いている。 「ふっ、何だ貴艦は。燃料タンクにも欠陥があるのか?」 たった今、体を離れたばかりの生暖かく、そして若々しい磯波のにおいを吸い込みながら、僕は笑う。 「貴艦の姉さん達が聞いたら、さぞ悲しむだろうね。それこそ姉妹などとはもう――」 「いゃ……です……! て、と……く……!」 磯波は顔を覆っていた両手で濡れたスカートの裾を握りしめ、僕を食い入るように見つめていた。 「提……督……! 磯波の、お願いです……!」 そして涙に揺れる瞳に、ありったけの哀願と崩壊寸前の理性を浮かばせ、 「か、解体だけは……どうか……許してください……! えぐ……ひうっ……うぅぅ……」 何とかそれだけを言い切ると、磯波は天井を仰ぎ、静かにすすり泣き始めてしまった。 「すんっ……まだっ、まだ、磯、波は……うあぁ……あぁ……ぁぁ……」 僕の乱暴な扱いに抗ったからだろう。セーラー服はすっかり着崩れ、さらけ出た肩が夜風に震えている。 月夜に照らされながら細い顎を上げて涙にくれる磯波は、船首をもたげて静かに沈んでいく軍艦を思わせた。 磯波は、完全に堕ちかけていた。このまま放っておけば、手を下さずとも次の作戦あたりで 沈むかもしれない。 静かに彼女が朽ち果てる姿を見ていることもできる。だが、僕はそうはしなかった。 ――そうしては、意味が無いのだからね。 「磯波……解体は、嫌か?」 磯波はうっすらと黒い瞳を開き、言葉を知らぬ子供のようにこくっと頷いた。 まだ、魂は生きているようだ。そこは艦娘、歴戦の軍用艦の名を引き継ぐ少女達である。 「そうか……だが磯波、僕は貴艦を今のまま運用することはできない。故に『改造』する」 「かい、ぞう?」 「あぁ、そうだ」 言いながら、僕は磯波の前にしゃがみ込んで視線を同じくした。 「磯波……人にも艦にも、『向き不向き』がある。僕は貴艦らのようには戦えない。しかし、 貴艦らを率い、深海棲艦に立ち向かう術を与えることはできる。『適材適所』とでも言おうか」 「はい……」 磯波は時折しゃくりあげながら、涙声で応じる。僕はゆ磯波が落ち着くのを待ち、続ける。 「磯波、君は艦娘ではあるが、今はたまたま、戦いに『向いていない』だけかもしれない。 ならば、貴艦は生まれ変わらねばならない。貴艦が建造され、進水され、この鎮守府に就役した ことに、意味を持たせる。それは貴艦を『改造』する事のみによって成し得ることだ。分かるね?」 「は、はい……!」 磯波は若い。蒼白だった頬に血色が戻り、何も知らない子供同然の瞳に、月と星の光が再び 差し込んでいる。暴れて着崩れたセーラー服の奥で止まりかけていた心臓が強く動き出して いるのが手に取るように分かった。 僕はよし、と小さく頷く。 「磯波、では早速だが、改造の儀式に移る。深呼吸して、息を整えろ」 「はい、提督!」 磯波は袖で顔を拭うと、言われた通り、二度、三度と胸を開いて大きく息を吸い、少しむせながら 吐き出した。 「よおし、いいだろう」 僕は人差し指を柔らかな磯波の頬に寄せ、拭いきれなかった涙をそっ……と掬い取る。 そしてその指を、ゆっくりと磯波の鼻先へ。 「磯波……目を離すな。僕の、貴艦の提督の、人差し指から」 「はい……」 磯波の黒目がちな瞳が、しっかりと、僕の指先を捉えている。 「貴艦を改造する第一歩、それは、貴艦自信をよりよく知ることに他ならない」 「はい……」 僕はその視線を試すように、ほんの僅かに指を右へ、左へと動かしながら、静かに囁く。 「磯波、僕はこれからひとつ質問をするが」 「はぃ」 「貴艦はその答えを、もう知っている。僕は既に、貴艦に答えを与えている。磯波……いいね?」 「は…………ぃ」 極度の集中からか、磯波の表情は虚ろになりつつも、その唇は既に僕がこれから命じようと してることを鋭敏に察していた。 僕は磯波の正中で、ぴたりと指を止め、問う。 「磯波……貴艦の身体から零れた『これ』は、何だ?」 磯波は答えるよりも早く、そっと唇を開き―― 「んっ……」 僕の指を、優しく暖かな口の中へと運んで、ちゅぱっと涙を舐めとった。 「ん……ふっ……。『これ』は、皆が運んでくれた……燃料、です……提督」 「良い娘だぞ、磯波」 優しく頭を撫でてやると、雲間を抜けた月の光が、ふっと強まった。 カーテン越しに届くその静かで鮮やかな白に照らされた磯波の表情を見て、僕は少し驚いた。 磯波は、笑顔を浮かべていた。 「あ、ありがとうございます、提督……」 思わず細められた磯波の眼から、悲しみや恐怖とは違う涙がこぼれる。 「おっと、磯波?」 「も、申し訳ありません……れろ……んちゅ」 咄嗟に僕が手で受け止めたそれに、磯波は躊躇なく滑らかな舌を這わせ、丹念に舐め取る。 「は、初めて……だったので、つい」 「何がだい?」 「そのっ、提督に……褒められたのが」 磯波は僕の手を取ったまま、はにかむように小さく、口もとだけで笑った。 瞳からまた涙がこぼれるのを防いだつもりだったのかもしれない。 ――成程、健気で……想像以上に早い『仕上がり』だな。 「磯波……!」 次の段階の到来を感じた僕は、へたりこんだままの磯波の足元へと手を伸ばした……。磯波ちゃん×提督6-853に続く
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/109.html
「コラ!俺を第一線がら下げるなっての!」 ドック内に罵声が響く。 天龍型一番艦天龍…綺麗なショートカットに緋色の瞳。そしてちょっと尖った形の大きい胸とプロポーションの整った肉体。 そんな容姿端麗の姿からは想像の出来ない言葉の荒さ。 先の戦闘にて破損した為提督よりドック入りを命じられ、半ば強引にドックへ入れられたのが不満であった。 「くそっ!なんで俺が…」 そうぼやきながらもドックでの修理が始まる。ところどころ破けた衣服が損傷具合を物語る。 普段から勝気のせいか、建造以来ドックに入っては出て行っての繰り返しをする天龍。 「もうガタガタ言ってもしょうがねーか…」 ドックの常連の為、修理が始まればどうにもならないことを悟り諦めに入る。 「仕方ねぇなぁ~」 「あとはまぁ任せるぜ」 そう言ってドックで仮眠に入る天龍。 それからどのくらいの時間がたっただろうか…躰に伝わる違和感で目を覚ます。 「んんっ…?」 誰かに抱き締められ明らかに胸を触られている… その感触に最初は鈍い反応を示すが違和感を悟ると慌てて起きる。 が、躰を抑えられ起き上がれない。 「くっ」 こんなことをするのは何処の誰だ?そう思いながら怒りの表情で振り返る。 するとそこには天龍と同じ髪の色をしたセミロングの女の子。 華奢な躰付きからは想像も出来ない力で抑えられる。そして目が合うと紫色の瞳が怪しく光る。 「お、おまっ!んっ!!」 怒り、叫ぶその瞬間、唇を唇でふさがれる。 そしてすぐさま進入してくる舌が天龍の口内をまさぐる。 「んーっ!んーっ!!」 怒りの表情を浮かべながらも思いもよらない行動に驚き、一瞬の隙に両手を押さえられてしまう。 そして口元は抵抗も出来ずなすがままにされてしまう。 唇を舐められ舌を絡められ抵抗が出来ない。しばらくそんな状況が続き相手が満足したのか唇を離す。 「い、いきなり何をっ!」 唇が離れた瞬間、涎の糸を引きながら叫ぶ。 「うふ、何か気になることでも?」 袖口で糸をぬぐいながら余裕の表情を浮かべる女の子。 天龍に良く似た顔と華奢に見える躰、胸は天龍とは異なりマシュマロのようなふっくらとした大きな乳房。 女の子特有の甘いにおいを香らせる彼女。それが天龍型二番艦龍田。 「何かって!見れば分かるだろ!ドックで休んでるんだよ!」 いつもどおりの荒い言葉で叫ぶ。 「うん、知ってるわよ。気持ちよさそうに休んでいたからもっと気持ちよくなってもらおうと思って」 そういって天龍の服の中に手を滑り込ませ胸を触る。 「ひゃぁっ!!」 普段出さないような女の子らしい悲鳴を上げる。 「あら~わたしのキス、そんなに良かった?」 「もう乳首ビンビンに立ってるよわよ~」 硬くなった乳首を指で転がしながらその感触を確かめる。 「う、うるさいっ!!」 「さっさとその手を止めろ」 顔を赤らめながら叫ぶ天龍。 当然そんな制止は龍田には届かない。 「だって気持ちいいんでしょ?天龍ちゃん」 「乳首硬くして、こんなに躰ビクビクさせちゃってさぁ…」 「可愛いね~」 手で胸を刺激しながら徐々に服を脱がせる。 天龍も嫌がりはするものの龍田が躰を押し付けているせいか思うように抵抗できない。 「やめっ!んんっ!!ぁんっ!!」 「や、やめっ!ひゃぁっ!!やめろぉ」 顔をますます赤らめ時々甘い声を出しながら龍田を押しのけようとする。が、それもかなわずもぞもぞと抵抗するたびに徐々に脱がされる衣服。 ジャケットは傍に転がりシャツのボタンは全て外される。 その間も天龍の胸を手で揉み解し、乳首を刺激し、首元にキスマークをつけ、時には乳首を唇で吸い上げる龍田。 「ひゃぁぁんっ!!」 「やめろぉ…やめろぉよぉ…」 「んんーっ!!はぁはぁぁ!!」 最初の頃からは大分大人しくなる天龍。抵抗がかなわない諦めと、躰が快楽に反応してしまっているせいかだんだんと勢いが無くなる。 「ほら、後一枚よっ!」 しばらくすると上半身は下着一枚の姿になる。そして龍田はその一枚もためらうことなく脱がす。 「はいっ!」 掛け声と共にブルンと飛び出す天龍の乳房。大きな胸に綺麗な桃色の乳輪、そしてツンと尖った乳首。 「やった」 「天龍ちゃん、凄く興奮してるねぇ」 「わたし嬉しいなぁ~」 にやにやと微笑みながら天龍のロケットのように尖った乳房を楽しむ龍田。 「はぁ…はぁ…ひゃぁっ!!」 「そ、そんなにっ!!あぁんっ!!」 「…んんっ!や、やめっ!!はぁんっ!!」 乳房をしつこく刺激され全身に快楽が走る。その淫らな快楽で意識は淀み、躰は火照り欲情する。肌にはしっとりと汗をかき、その艶っぽさが龍田を更に刺激する。 「ふふふっ…天龍ちゃん、凄くいいにおいする」 「はぁ…んんっ!」 そう言いながら責めるを止めない龍田。首元を舐め、舌を這わせ天龍の腋まで刺激する。 「そ、そんなところ!ひゃぁぁんっ!」 腋を舐められ妙な刺激が伝わる。 「はぁぁぁ…天龍ちゃんの腋、いいにおい…」 「んんっ!」 香りをかぎながら舌で執拗に刺激する。 「ふぁぁっ!!」 「やめっ!!!っんん!!」 「なぁに?やめてほしいのぉ?」 「とか、言いつつほんとは気持ちいいくせにっ!」 普段も強気の天龍。抵抗は弱くなるものの、龍田の快楽の責めにはなかなか折れない。そんな様子を確認しながら今度はスカートに手をかける。 そして一気にめくり上げる。 「ひゃっ!」 「だ、だめっ!!」 「見るなっ!!見るなぁ!!」 顔を真っ赤にして叫ぶ天龍。スカートの中には真っ黒なショーツ。布の少ないTバックタイプのを身に付けていた。 しかし、そのショーツはもはや役には立たず止めることの出来ない大量の愛液で濡れていた。 「天龍ちゃん、どうしたの?」 勝ち誇った表情で問いかける龍田。 「くっそがぁ…っ!」 一番恥ずかしいところを見られて激昂する天龍。 だが既にイニシアチブを龍田に取られている状況ではもはや戦況は覆らない。 「そんな怒った表情もそそるなぁ~」 そう言って唇を舌なめずりをする龍田。 そして今度は盛り上がっている自分のスカートをゆっくりと摘み上げる。するとあるはずの無いものがそこにはあり天龍を驚かせる。 「お、おまっ!な、なんだよ」 「そ、それっ…!?」 龍田のスカートの中には白いレースのついた可愛らしい下着が秘部を隠しているものの、天龍と同様、愛液により濡れており無毛の恥丘が透けて見える。 驚くべきはその上。秘裂の付け根から伸びる大きいそれ。可愛い下着からはみ出したそれはあまりに似つかわしくない。 「うふ、何か気になることでも?」 それはどう見ても男根だった。華奢で可愛い龍田からは全く想像出来ないもの。 「わたしの14cm単装砲はどうかしらぁ?」 がちがちに硬くなっているそれは先端からはカウパーを溢れさせ準備万端だった。 「ど、どうって…お前…」 ただただ驚く天龍。女の子の龍田にそれが付いていることや、その大きさ、太さ。あまりの出来事に頭が付いてこない。 そんな驚き固まる天龍を尻目に息遣いが荒くなる龍田。 「はぁはぁ…はぁはぁ…」 「もう我慢できないなぁ~」 そう言って力任せに天龍を押し倒す龍田。 「ふぁぁっ?!」 「や、やめっ!」 突然のことに驚くも、先ほどからの快楽で力も入らずあっさり押し倒されてしまう。 「はぁはぁはぁはぁ…」 荒い息遣いで男根を天龍の下着に押し付ける。 「お、おいっ!!やっ!!!」 慌てて止めようとする天龍だったが暴走する龍田は一気にそれで貫く。 「はぁいっ!」 押し付けた男根は愛液とカウパーで潤滑剤の役割をし、生地の少ない天龍の下着の隙間から秘部へ一気に挿入される。 「ふぁぁぁっ!!!」 思わず驚きと悲鳴が混ざるような声で天龍が叫ぶ。 龍田は挿入したそれを一気に膣奥まで進入させる。溢れる愛液のおかげで子宮口まで一気に到達する。 「あはぁ…天龍ちゃんの膣中、あったか~い」 「ぬるぬるしていてキモチイイ~」 そう言って大きくゆっくりと確かめるように腰を動かす龍田。 「はぁんっ!!」 「こ、こんな、こんなのっ!!」 「ちょっとぉ~天龍ちゃん、そんなにキモチイイのぉ?」 「膣中締め過ぎだよぉ~」 あまりの気持ちよさに快楽をコントロールできない天龍。本能のまま龍田の肉棒を締め付ける。 「ふぁぁぁんっ!!」 「そ、そんなこというなぁっ!!!ひゃぁあぁっ!!」 少しでも腰が動くたび膣中が不規則にぎゅっぎゅっと男根を締め上げる。 そして第一回目は予告無く訪れた。 「んっもうっ!気持ちよすぎるからって!」 「締め過ぎだよぉ」 そう言って肉棒を膣奥に挿入した瞬間。 「あっ!?く、くるっ!!」 「ふぁぁんっ!だ、だめっ!」 「はぁはぁはぁぁぁぁあああんっ!!」 いきなり絶頂を迎える天龍。そしてその瞬間、子宮口を刺激している肉棒を吸い上げるように締め上げる。 「ちょっ!ちょっとぉ!!んんーっ!!!」 突然の天龍の絶頂と締め付け。それに伴う強烈な快楽が龍田を襲い身構えることも無くあっさりと白濁液を発射する。 「んんっ!!はぁぁんっ!!」 「はぁぁぁっ!!お、奥に…出、出てるっ!!」 「こ、こんなの、気持ち…良すぎる…」 「我慢とか…無理…無理…」 天龍の搾り取るような締め付けに膣奥で暴れる肉棒からどぼどぼと溢れる白濁液。 快楽のあまり全く制御も利かず本能の赴くまま肉棒を締め上げる天龍の膣と、それにひたすら濃厚な精液を出し続ける龍田。 「あははっ!!」 「こんな…んんっ!凄い…はぁんっ!!」 「赤ちゃん出来ちゃうぐらい出しちゃってる!!」 あまりの快楽にイクのが止まらない天龍だが龍田の台詞を聞いた瞬間、動揺してしまう。 「はぁぁっ!!」 「は、孕むの…だ、だめだっ!!」 「はぁあっ!!!だ、駄目なのにっっ!!」 「ひゃぁあぁっ!!」 「イ、イクのがぁっ!!はぁっ!!」 首を振り妊娠を恐れるものの快楽を止めることもできずひたすら肉棒から精液を搾り続ける。 締め上げるたびに膣奥に吐き出される精液。 「ふふっ!」 「天龍ちゃん、かわいい~」 「孕むの嫌だと言う割には淫欲に負けてきゅっきゅっ締め付ける膣中」 「もっと素直になればいいのに~」 戸惑う天龍を見下ろしながらにやにやと微笑む龍田。 「んんんっ!!」 「ちっ…ちっくしょぉ!」 意識とは別にイクのが止まらない天龍が怒声を上げる。そしてキッと龍田を睨み反抗を見せる天龍。 「んー?」 「躰は気持ちよくなっているのに…」 「天龍ちゃんがなんかすご~い顔でにらんでるし、うふふ」 「なぁに?あんなによがっていたのに…素直じゃないなぁ~」 「仕方ないわねぇ~」 「追撃するね~、絶対逃がさないんだから」 天龍の反抗的な瞳が龍田の加虐心を強く刺激する。 どうしても堕ちる姿が見たくなった龍田は膣中から抜かずにそのまま腰を動かしだす。 「ちょっ!ま、まてっ!!ひゃぁっ!!」 「い、イッたばかりだから…んんーっ!」 一度絶頂を迎えている天龍の躰はかなり感度があがり少しの刺激が強烈な快楽になり前身に伝わる。 「ふぁぁっ!!」 「や、やめ…んっあぁんっ!!」 腰を動かすたびに女の子のような甘い声を出すようになる天龍。挿入を繰り返す無毛の秘裂からは先ほど出された精液が愛液と混ざりながらあふれ出る。 恥丘の端からは真っ赤に腫れ上がったクリトリスが顔を出している。 「ふふっ天龍ちゃんのアソコ、凄く可愛いわぁ~」 「こんなに腫れちゃって…えいっ!」 そう言いながら天龍のクリトリスを刺激する龍田。 「ああぁんっ!!」 「そ、それダメだっ!!」 そう叫んだ瞬間再び膣中が震える。 「はあぁっっ!!」 「い、いっくぅっ!!」 腰がガクガクと振るえ龍田の肉棒を締め上げる。 「んんっ!!」 「き、きつぅ…」 天龍の締め上げに思わず射精しそうになる龍田。 「もう、すぐにイッちゃうんだから…」 「もっとわたしのことも考えてよぉ~」 「そんな娘にはおしおきー」 自分で刺激しておきながら意と反する絶頂を迎える天龍に理不尽にもおしおきをする龍田。 「そんなに敏感ならこんなのはどう?」 そういうとイッたばかりの天龍のクリトリスを更に刺激する。 「あがっ!!」 「あ あ あ !!」 すると再び強烈な絶頂が天龍を襲いさっきよりも強めに膣中を締める。 「ひゃぁっ!!」 その波打つような刺激に思わず龍田も悲鳴を上げる。 そして先ほどとは違い膣口から液体が飛び出す。 「あれ?天龍ちゃん…」 「もしかし…それ潮?」 何が起こったのかもはや頭が回らない天龍。 「あはは~天龍ちゃん潮吹いた~」 「そんなに気持ちいいの~?ここー」 嬉しそうに膣口を刺激しながら腰を動かす。 するともう完全に淫欲に飲まれ膣奥からはドロリとした本気汁が垂れ、肉棒の出し入れの手助けをする。 「も、もう…」 「こ、これ以上は…はぁぁんっ!!」 もうここまで来ると天龍の意識は性欲に負け抵抗をするのを諦めていた。 ただただ龍田に身を任せひたすら淫靡な快楽の海を漂う。 「んっんんっ!!」 徐々に腰の動きを激しくしていく龍田。そして繰り返し小さい絶頂を迎える天龍。 もうお互いに快楽の頂点が迫ってきていた。 「はぁはぁ…天龍ちゃん…本当は…」 「んっ!もう…我慢…出来ないんでしょ?」 腰をばしばし打ち付けながら耳元で囁く龍田。 それもそのはず。天龍の乳首はしっかりと勃起し秘裂からはもう止まらない愛液。膣奥にはこんこんとあたる子宮口が下りてきている。もう絶頂が近いのは言わなくても分かる状態だった。 「ほらぁ…はぁぁんっ!」 「ちゃんと…正直に…言わないと…んっ」 「膣中で出してあげないわよぉ」 腰を打ち付けられるたびに快楽が走り脳髄を麻痺させられていく天龍。 ここまで来るともはや思考回路は働かない状態だった。 「ほらぁ…どうなのぉ?」 「んんっ!」 唇が重なり改めて下を絡める。上からも下からも快楽が襲いもう抵抗など出来なくなっていた。 「はぁぁんっ!!」 「もう…っ!!だ、ダメだっ!!」 「出せっ!!我慢…出来ないんだっ!!」 そう叫ぶと脚を龍田の腰に絡ませ中出しを要求する天龍。 「あははっ!そんなに?そんなになぉ?」 「赤ちゃん、孕んじゃうかもよぉ?」 全くあせることなく嬉しそうに質問をする龍田。 「はぁんっあぁっん!!」 「だ、だって…こんなの…こんなにきもちいいの」 「が、我慢できるか!」 そう叫ぶと自ら腰を動かし快楽を貪る。 それに答えるように龍田も男性と変わらないくらいの激しい腰の動きで絶頂へと上っていく。 「んんっ!!」 「はぁはぁぁぁっ!!」 「そ、そんなにっ!!」 「ダメだっ!!もう…いぃぃっ!!」 「イクっ!!!」 先に絶頂迎えたのは天龍だった。強烈な締め付けと溢れる潮。躰がガクガクと震える。 「んんっ!!」 「わたしもぉ~」 その締め上げにつられ龍田も絶頂を迎え膣奥に再び精液を吐き出す。 「はぁぁっ!!」 「膣中に熱いのが…」 龍田の精液を受け止めながら悦びの表情を浮かべる天龍。 「きもちいぃ~」 「こんなに出したら本当に孕んじゃうわよ~天龍ちゃん」 射精をしながらにやりと笑う龍田。 「ってもう聞こえてないかな」 そんな龍田をよそに天龍は射精の快楽を味わいながら躰をビクッビクッと震わせ満足そうに絶頂の余韻に浸っていた。 こうして小さいドックの中での淫靡な時間は過ぎていった… …………… ………… …… コンコン。 提督の部屋にノックの音が響く。 「開いているわよ」 若くして艦娘達の提督となった女の子がその部屋にはいた。 「龍田です。入りまーす」 扉を開けると普段よりも艶っぽい龍田が入ってくる。 「天龍ちゃんについて報告でーす。先にドック入りした天龍ちゃんですが修理時間延長です」 その報告を聞きふーっとため息を吐きながら提督が質問をする。 「何をした?」 「いやぁ…色々「お手伝い」しているうちに熱くなって…」 綺麗な髪をいじりながら気まずそうな表情を浮かべる龍田。 「…まぁいいわ、あなたのその表情を見れば何をしたかは想像できるわ」 「下がっていいわよ」 「はぁ~い」 「あ、提督のも「お手伝い」しましょうか?」 そう言っていつもの表情で微笑みなが舌なめずりをする龍田だった。
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/512.html
295 名前:クズ ◆MUB36kYJUE[sage] 投稿日:2014/07/31(木) 23 09 30 ID 83ch0TLo [1/10] 前スレ 807から大鳳と祥鳳の修羅場ものを投下したものです。 続編を書いたので投下します。 例によってドロドロが苦手な方はスルーをお願いします。 三章 1 自然な目覚め。ぼやけた意識が輪郭を取り戻すと、ある焦燥がさあっと胸を撫ぜ下ろした。上体をばねの様に跳ね起こし、未だ視界 の霞むまま、提督は枕元に時計の時刻を見る。盤面上の短針は、ちょうど五を指した所であった。 それは習慣だった。大鳳が朝の走りこみに彼を誘うようになってから、彼は自身の寝顔の見られることを嫌い、五時の十分前に目覚 ましを鳴らしているのである。傷心の昨晩、ただただ逃避を求めた提督は、何にも意の向かうことなくベッドへと沈んだ。裏側のつま みを押し上げるだけのごく小さな手間さえ億劫でならなかった。時刻をセットしなければという観念はあったのだが、結局意識の落ち るまでにそれを果たすことはできなかったのである。 体躯が独りでに覚醒したのは、羞恥と恐怖による作用があったためだ。寝顔を見られる、意識の無い間に部屋に入られる。自身の秘匿、 意識的なものであれ無意識的なものであれ、そういったものが露呈してしまうという事に厭悪の念がある提督であった。こと大鳳が相 手となると、なにやらぞっとしないのである。 その朝、彼女は部屋へとやってこなかった。どちらにせよ、万斛の愁いに浸った今の精神状態ではランニングなぞできるわけもない。 朝食まで無聊な時間を過ごす事ができたのは幸いであって、彼は彼女と会ったときへの備えとしてあらかじめ言葉を選び取ることがで きた。 非は自身にあるから相手の出方に合わせねばならない。だがそれでも、深刻なことにはならなそうだと楽観できた。あのあてつけは、 向けられていた好意を知っていた上で行われた。舌を差し込んだとき、一瞬の恍惚と悦楽の吐息が唇に感じられたし、落涙は嫌悪によ るものでない事も分かっていた。祥鳳について無遠慮に踏み込んだあの発言がトリッガーだった事を、彼女とて自覚しているはずであ る。ならば反省やら悔悟やらが凝結して、寧ろ相手の方から様子を伺ってくるやもしれない。気遣わしく思う必要はないと結論付ける のに、大して時間は掛からなかった。 大鳳が執務室の戸を開けたのは九時丁度、通常の業務開始時刻である。奇妙な緊張感を纏いながら、彼女は提督の隣に黙って並んだ。 仔細な様子はなかった。積まれた書類を手前に引き寄せ電卓を弾きペンを持ち、彼がそうして仕事をおずおず始めてみると、大鳳も 黙して自身の職務に手をつけた。デスクワークの時間においては、普段の日も割りに静かではある。だが今日は何時ものように挨拶を 端緒としなかったために、異様な重苦しさが両者の息をきりきり詰まらせるのだった。 この展開は、提督が想定した中では最も面倒なものであった。いっそ赤ら顔に怒ってくれていたほうが、まだ宥めようもあったのだ。 恬然とした表情が作り物であることに疑いは無い。だとしてもこちらから不意に謝ってしまっては、寧ろ彼女の機嫌は修復不可能なレ ベルにまで損なわれてしまうだろう。生娘の心理の機微ほど明瞭でないものもなく、提督とてその夜陰の原野には迂闊に踏み込めない のだった。 昼を食べるときに必要最低限のコミュニケーションはあったものの、結局日の落ちるまで気散じな会話はなかった。もし業務外の雑談 をしようとすれば、その話題はどう繕ってみた所で昨晩の事となってしまう。口を開いたが最後、今日やらねばならない最低限の事さ え手に付かなくなるだろうことを、両者は察知していたのだった。 即ち、口火の切られたのは執務の終了後、部屋をでる直前になってからであった。 倦怠の体を労わるように、開いた窓から風が通る。部屋に篭る執務の熱が、攪拌されて冷まされた。互いが互いを散々忖度し尽くし た為に、寧ろ停滞してしまったこの状況において、解決の端緒となるは、やはり立ち去る権利の有された彼女の方であったのだった。 「提督」 見送る視線をうなじに感じ、ドアノブに掛かる指が強張っていた。大鳳は緊張によって震える声音にそう一言呼びかけると、小さな 双肩を縮こまらせた。 「なんだ?」 背中へ聞き返し、彼は椅子から立ち上がる。机の前に立ち、少しだけ体重を預けてみると、ぎしりと耳障りな音が鳴った。 厭に間が開いた。彼女の中では、既に言葉は定まっているはずであった。呼びかけてしまった時点で後に引く事もできないのに、躊 躇が喉を狭めているらしい。人差し指で机の淵を叩いてみると、彼女の体躯は、発せられた硬質の音にびくついた。 それが契機となったらしい。一つの長い深呼吸の後、彼女は大仰に振り返る。顰められた眉、睨みつけていると言ってもいいほどに 細められた眼。口は固く結ばれ、背負う覇気は重々しかった。 真剣な表情にしかし、提督は自身も真面目らしい顔を維持するのにかなりの労をとっていた。まさしく沈黙の半日を象徴する表情だ なと心の中で一人言つと、それもまた何やら面白く思われ、ひくつく頬を押さえ込み、目を逸らして何も考えないようにする。死地に 赴かんばかりの純真さは、立場が違えばコメディだった。 入念に熟成されすぎた言葉が、薄い唇を割った。 「昨晩のことは、忘れたほうがいい?」 癌を告知するような、厳かな風を漂わせた発言だった。しかしこれは朝の暇の間、まず真っ先に予想できたものでもあったのだ。こ の肩透かしな言葉を聞くや、腹底から猛然と駆け上がってきた嘆息を、彼はすんでの所で飲み込んだ。 どう返答するかも決めていた。間髪いれずに 「お前は忘れたいのか」 そう聞き返すと、彼女は吃驚したように目を見開き、遅れて頬を淡く染める。 「質問を質問で返さないで!」 「なんで」 「あの、困るわ。そんな事聞かれたって、私、答えられない」 両者の間が詰まる。一歩一歩、提督はゆったりと彼女に近づいてゆく。絨毯の踏まれる足音が耳に入るたび、脅えたように眼が涙を 湛えたようだった。とうとう耐え切れなくなると、大鳳は体ごと視線を背ける。ドアノブにもたれる様にして、背が小さく丸められた。 横顔に垂れる一房の髪が、掬い取られ、撫ぜられた。震える肩の強張り、筋立つ手の甲。眼は瞑られ、その拍子に一滴の雫が流れ落ち る。目尻から頬、そして頤へと煌く筋が顕れ、色白で滑らかな肌を彩った。 頬に手を這わせる。従順に正面へと向いた顔には、しかし脅えの色があった。 「駄目。提督、駄目です……あっ」 僅か押される腕。引き離そうとするその動きに、ほとんど力は込められていない。唇の重なり合うと同時、大鳳は自ずから目を閉ざ してしまったのだった。 啄びの最中、口の少し離れるたびに、小さな嬌声交じりの吐息が漏れ出す。嬲られる唇の甘い刺激が、胸を締め付けてならなかった。 彼女は縋るようにして、彼の胸元、縒れた白の上着を掴む。浮いた背の隙間に、すかさず腕が入り込み、両者の体躯はぴったりと密着 させられた。 彼の舌が口腔内へと進入する。口の離れた時にしか発せられなかった吐息が、開かれた隙間、唾液の跳ねる音と共に、常時聞こえる ようになる。羞恥と悦に腰の抜けそうになった彼女は、股の下に差し込まれた大腿に支えられて、何とか立ち続けることができていた。 快楽の蹂躙に蕩けた思考は、更にその先を求めだしたらしい。恐々と言った風ではあったが、大鳳は遂に自ずからも舌を差し出し始 める。ぬめる両者が口と口との間に触れ合うと、羞恥の熱が遅れて彼女の胸を焼く。 供物の捧げられたのを感じ、彼はすかさずにそれを絡めとった。吸い、嬲り、大きな水音の響くたび、記憶の辛さが溶けるように和 らいだ。今、目前の娘を感じ、補填による充足が気を軽くしている。満たされるという感覚ではなく、代替によって補われ、癒えると いった風だった。自身の腹底の暗い事に驚懼し、だが湧き出す自嘲の痛みさえ、この補填が紛らしてしまうのである。 「ベッドに行くか?」 口を離し、伝う橋もそのままに聞くと、彼女はこくりと頷いた。提督の眼に滲むのは、ただただ深い憐憫の情のみである。 2 彼女は褥に横たわった。 既に腹部と首元の装甲は外されていた。肩に掛かる上着を脱がしてみると、滑らかな色白の肌が凄艶である。軽く握られた掌が顔の 横に置かれる。今や露わになった腕の華奢さに、危うげな、無垢の妖艶を感じて、提督は生唾を飲み込んだ。 手折られた茎を思わせる手首に、彼は唇を近づけた。僅かに膨らむ筋を食み、舌を這わせると、閉じられていた指が開いていった。 覆いかぶさる体温と、感ぜられる吐息の熱さ。そして舌の淫靡な感触に、大鳳は胸奥を痒がらせる。意想外の部位であった。故に、 与えられる刺激への覚悟が無く、たちどころに力の抜けるような感じがした。 数分間続いたこの手首への愛撫は彼女の思考悉くを蕩けさせ、眼は溶け落ちそうに潤んでいる。 インナーと肌との間には一縷の隙間も無く、体躯の細さがより際立つ。一度上体を持ち上げた提督は、彼女を俯瞰した後、今度は首筋 へと口を下ろした。 「あっ……」 鎖骨に触れた湿りが、彼女の喉を鳴らした。差し出された舌はそのまま首を登攀し、丁度頤に目尻の触れる場所まで辿り着くと、深く 咥えこむように唇が開かれた。 吸われ、跡の付けられていることを知覚し、大鳳は慌てて抵抗しだした。力の緩びきっていた体が、息を吹き返したかのように暴れる。 顔を背け、肩をよじり、腕は彼の胸を押した。 真意の掴めない内に、恋人のような睦みを受ける不安。それが漠然とした恐怖となって、彼女の胸を痛ませた。ましてや、キスの跡と は所有の証とも捉えられかねないのである。身の堕ちる感覚が、背徳の悦でもあり、屈辱でもあった。 「駄目、やめ……んっ」 幾ら頭を振っても、彼の口は離れない。一秒、二秒と時間の経過してゆく度、彼女の快楽はその暗がりを増していった。自身の純真 が犯され、蹂躙されている事を、泣き出したい気持ちに受け止めている。それは決して厭悪の感触ではなく、寧ろ被虐の悦びを享受し ている風だった。首筋のこそばゆさは、やがてぴりぴりとした刺激に変化する。 舌で慰撫した後、口を離して眺めてみれば、濫りがましい鮮やかな朱色が咲いていた。指先で拭うように触れてみると、彼女の口から は熱い息が吐き出された。 「服で隠しきれないね」 煽られた嗜虐心に従い、そう言って見せると、彼女の瞳には絶望の色が滲んだ。見咎められる場面でも想像したか、眼は潤み、頬は これ以上ないほどに赤くなった。 腕が、再びぱたりとベッドに落ちる。提督は手首を押さえると、今度は優しく口にキスをする。舌も差し込まず、ただ唇同士を触れ 合わせるだけの接吻であった。 その効果が如何なるものか、きちんとした予測はあった。果たして大鳳の心情は、それとまったく同じ動きを見せたのである。即ち 仮初の恋慕。望む望まざるに関わらず、彼女は想いの通じ合う喜びを垣間見た。甘い歓喜に身を震わせ、刹那の慰みが心中を癒した。 だが奥深く、根源の感情は寧ろ、引き千切れそうなほどの切なさ。どうせ裏切られるのだろうという諦観の観測が、胸底を炙り疼かせ るのだった。 悦楽への端緒として、最終的、そして究極的な感情は悲壮である。身の結合とは反対に、感情においては繋がらない。そういった背反 の空虚こそが、性の快楽を最大のものとさせる。提督は大鳳を好いてはいなかった。そして、ただ彼女のよがる姿を見、それを慰めと したかったのだ。 このキスに、いや愛撫全てにおいて慈しみなど込もってはいない。慕情の無きを伝播させるに、恋愛的好意を用いるのだった。彼女 を貪婪にさせ、ひいては淫猥と呼べるほどにまで乱れさせる。その目的への手段として、清白な純真を踏み躙り、汚すのだ。 後ろ首の留め具を外す。腹の辺りの弛みを掴み、引っ張った。インナーは滑らかな肌をするすると滑り、遂に薄い膨らみを通り越え た。 露わになった頂を隠そうとしたのか、ほんの少し、腕の動く気配があった。だが逡巡の硬直の後、僅かに浮いた手の甲は、力の入っ たまま降ろされる。含羞の顔を横へと逸らし、彼女は唇を噛み締めて、体に注がれる視線を受け止めた。 やはりコンプレックスなのだろうと思われた。提督は平坦のそこ見、加虐の悦を押さえ込む事も無く、頬を吊り上げ口を開いた。 「ちっちゃい」 嘲る語調が癪に障ったか、珍しく本気で怒っているらしい眼を持って、彼女は提督を睨みつける。申し訳なさの欠片もない、余裕の 笑みを視界に入れて、口惜しさは一向募るばかり。 彼唯一の弱点を知った身上、報復としてその話題を出すのに躊躇はなかった。彼女は、彼以上の嘲りの声音に、 「祥鳳さんと比べて?」 と言う。果たして、彼の目にも怒りの色が滲み、胸のすっとする様な心地になったのもつかの間、胸底の痒くなるような快楽が思考 を中断させた。 「あっ……ん、はぁ」 右胸の蕾が無遠慮に摘まれ、空いているほうには遅れて唇の感触があった。繊細な指遣いと動物的なぬめりに、背筋がぴんと強張っ た。 ただ痛くはないというだけの、容赦の無い愛撫である。温もりと形容されるような、精神的充足を感じさせる行為ではなかった。皮 膚感覚の敏感な所を執拗に刺激され、彼女の口からは熱い吐息が漏れ出した。 やがて彼のキスの及ぶ範囲は、上腹や脇にまで広がるが、その間も手は僅かな膨らみをしつこく撫ぜ続けた。指は沈み込み、掌の蠕 動が柔らかく肌を波打たせた。色付く頂が擦られると、吐き出される息には声が乗る。羞恥を感じる暇もなく、大鳳は快楽に翻弄され るだけであった。 「んぁ……はっ、ぁあ!」 勃ったそこが弾かれると、彼女は一段高い声に啼いた。刺激の残滓として痺れが残り続け、それは次第に思考までをも侵蝕する。再 び摘まれたそこの引っ張られ離される瞬間、痛みへの恐怖はしかし、快感への期待と変わっている。 飽きるまで弄び、臍の辺りに口付けた後、提督は一度上体を起こした。 「腰、浮かせて」 スカートとスパッツに手をかけて、彼女を伺い見てみると、虚空を眺める瞳に遅れて意思の光が燈る。 「……はい」 年甲斐もない甘える声の返事と共に、ゆるゆると持ち上がった腰に合わせて、彼は手に掛かる全ての布を一気にずり下げた。 今や生まれたままの姿となっている事を、彼女は他人事のように感じていた。太ももを滑る指が一度下腹部にまで登った後、とうと うその直下へと下ろされていった。蛇の進行が如くもったいぶった動きで、徐々に徐々にと近づいてゆく。 「……ぅぁ」 陰唇の上端に触れかける寸前、指の動きは完全に止まった。ちょうど、三流の悪役が獲物を目の前に舌なめずりをするのと同じよう なものであった。恋愛の無い情事において、その慰めは嗜虐によって達成されるのだ。 男を知らないそこは、恥丘の膨らみから谷の垂線まで、清白の極限であった。だが不釣合いにその全体は淫靡な粘液に濡れ、桃色の 襞が婀娜やかにひくついている。再び動き出した指先が陰唇の上端を掠めると、歓喜の嬌声が彼女の意思に反して漏れ出した。 「あぅ……ん、ぁ!」 這わされた指は、その全体が包まれるようにうずまり、細かく上下に震わすと、卑猥な水音が部屋に響くようだった。時折軽く叩く ようにすれば、その音はより鮮明になり、飛沫はシーツと脚とを汚してゆく。 今すぐに舌を噛み切りたいと思うほどの羞恥に苛まれ、大鳳はかぶりを振った。胸への愛撫を受けた際には、ただぼうっと思考の蕩 ける感じがするだけであった。だが直接的な、下準備としての行為は、自身の雌としての本能を無理やりに剥き出しにさせられてるよう で、侵される矜持に我慢がならないのだ。 提督はずいと体を寄せたかと思うと、空いていた方の手で髪を梳きながら、耳の淵へと舌を伸ばした。輪郭をなぞり上げ、耳たぶを 軽く甘噛みし、思わず足の緊張の解けたのが感じられるや、すかさず陰部への刺激を大きくする。解きほぐすようにして、表面から奥 深くへ、蒸れた卑猥の孔を穿った。 「ま、待って! ひぐっ……んぅ」 懇願は無視をされる。最早与えられる過大な快楽に僅かな抵抗さえできない彼女は、ただただ一方的に嬲られるという被虐の悦を享 楽するしかなかった。 自身が自身でなくなるような恐怖を抱き、彼女は提督の体躯にしがみつく。喘ぎ声を聞かせるような格好をしている事に、気が付く 余裕も無い。頬を擦りあわせ喉の震えるまま、獣性の蹂躙をその身に受け続けた。 時間間隔の希薄になるほど蕩けきった思考が、快楽による拷問の終わった事をようやく遅れて認知した。横隔膜の絞られた痛みや、 臀部にまで感じられるシーツの湿り気。そういった残滓が一つ一つ知覚され、今現実に再び帰還したような心地となった。 布擦れの音と視界の肌色に、どうやら彼も服を脱いだらしい事が分かった。大鳳は逡巡の後、その行為の意図を察すと、慌てて迫る 胸を押した。 「あの、提督」 「なに?」 「愛してるって、言ってください」 ハスキーな声音が、より掠れている。提督の胸には憐憫や寂寥がわだかまり、咄嗟の返答をできなくさせた。 「愛してるって言ってくれなきゃ、入れちゃ駄目なんだから。……私、祥鳳さんの代わりなんて、厭」 答えを待つ視線が焦りに揺らいだのは、それを言い終えた直後だった。 罪悪の意識が無かったわけではない。それでも、その一語を言うに未だ提督は臆病すぎたのだ。無理やりに開かせた足の間、肉槍の 迫っている事を感じ取り、大鳳は半ば悲鳴に近い声を出す。 「駄目、いやぁ! 提督、待って!」 本気らしい抵抗があった。拳が胸を叩き、足と腰はそれを遠ざけようと懸命に暴れる。しかし既に覆いかぶされている状態では、全 て無駄な足掻きだった。 その痛み、自身が犯されたと気が付いた時のその表情を見て、提督は暗い愉悦を感じた。 「……ひどい」 吐き出される呪詛が耳に心地よい。向けられる恨めしい視線が慰めだった。腰を振れば、強気な彼女の表情も、恍惚と悲壮に歪むのだ。 自身に内在する暴力性が、相手の完全な屈服を求めた。提督は腹黒い笑顔に、躊躇わずそれを口にする。 「でも、身体は悦んでる」 指が肉芽に伸びると、彼女の膣は咥え込んだ彼を扱く様にして蠢く。必死に首を振る彼女を見下ろし、尚追撃は緩めず、落涙を舐め て耳を食む。 反復され続けた悦楽の指教が、体躯を極限まで淫らにした。精神は未だ清く彼の恋情を欲したとしても、最早体の方は剥き出しの本 能に従う獣となった。下腹部を圧する彼の存在に、満足を覚えている自身。厭で厭で仕様が無いはずなのに、言葉で責められれば言い 返せないのだった。 それからどれだけ責め苦は続いたか。穢しぬかれ、淫らに湿潤蓄えたそこは、彼を咥え扱く女の肉壷となった。 動きの速まりを感じて、彼女は緩くかぶりをふった。 「中に出すぞ」 征服の証が刻まれる。その事への厭悪と被虐の悦が複雑に混ざり合い、慟哭とも嬌声とも取れない声となって溢れ出す。絶望的な心 境の中、腹内に広がった温かみが、彼女を否応無しに絶頂させた。 3 祥鳳は全てを聞いていた。 かつて提督と恋仲にあった時、褥を共にし迎えた朝。心地よいまどろみに、つい起床時刻の直前まで体を横たえらせていた事が幾度 もあった。 存外朝に弱い提督は、それに気付く事もなかったから、毎晩シーツに温もりの残滓を認めるだけだったのだろう。毎夜毎夜、その行 為が夢であったかのように、忽然と消えている彼女の姿。それは、彼にとって一種の耽美に思われたはずだ。 実際には、より泥臭い方法をもってして、この演出は行われていたのだった。早起きの艦娘に見つからないよう、宿舎棟、自身の部 屋まで移動する方法として、やはり理想は廊下を歩む事をせず、窓から進入することだった。問題は彼女の部屋は二階にあり、裏庭と も言うべき窓側の空き地からの帰還はとてもできそうにもなかったことである。 鎮守府本棟の提督の寝室は二階、つまりその建物においての最上階にあって、構造上屋根の端が窓視界の上端に掛かっていた。艦娘 としての非凡な能力を用いれば、そこに手を掛けよじ登る事など造作もなく、彼女は起床の時刻の遅かった時、何時も屋根伝いにて、 部屋へと帰還していたのだった。 途中渡り廊下の天井へ飛び降り、対岸の艦娘宿舎の壁を、小窓の突起を用いて登攀する。自身の部屋の直上まで辿り着けば、後は開け ておいた窓の位置を確認して、身を滑り込ませるだけであった。意外にも試みは容易く成功し、以来彼女は、就寝に不安も感じなくな ったのだった。 虚偽の恨み言をぶつけた事へ罪悪と悔悟の念に苛まれていた祥鳳は、その日、増幅するそれらの感情にとうとう耐えられなくなると、 謝罪と真意を告白する決心を固めた。ただ、夜の早いうちに執務室を訪ればあの装甲空母が邪魔であるし、かといってわざわざ二人で 話をしたいと面向かいに言うのもいらぬ誤解を与えかねなかった。悩む彼女の頭には、いつしか意識の敷居の下にその思い出が巡りだ し、それが突破口となって一つの策謀が胎を結んだ。 夜半、彼の就寝時刻直前。祥鳳は部屋の窓から身を乗り出し、屋根の路を進んだのだった。 幾ら大鳳と言えど、未だ同衾関係にまでなってはいまい。ならば、彼の寝室にて待っていれば二人っきりで話ができると、彼女はそ う思い至った。 個人の部屋に無断で忍び込む事について良心が痛まないわけでもないが、それ以上の罪を重ねた身上、致し方ないと結論付ける。自 責の痛みをこれ以上我慢することは、とてもできそうになかったのだ。月光の照らす中、足音を忍ばせ、本棟寝室の真上にまで到達す る。 窓から部屋への進入に成功した彼女は、まだベッドに彼のいないことを確認した後、隣の執務室へ聞き耳を立てていた。明瞭でない 彼と彼女との会話の声は、しばらくの時間の後、ぱったりとまったく聞こえなくなる。 廊下への扉の開く気配も無い。疑問に思っていると、今度はカーペットを踏みしめる音、それも四足二人分が徐々に大きく聞こえきて、 彼女はぎょっとして壁から離れた。部屋の中央に立ち尽くすし、焦りと混乱の中、とにかく隠れる事のできる場所を探した。まず真っ 先に視線の向かったのは洗面所であったが、両者の一方でもトイレに赴けばその時点でばれてしまう。ドアノブが回されたのを視界の 隅に捉え、半ば思考の外の反射に、彼女はよりにもよってベッドの下へと潜り込んだのだった。 木板とマットレス、合わせておよそ一尺の厚みを挟んで、情事の生々しい音を聞き続けるしかなかった。嬌声も水音も、スプリング の軋みにさえ吐き気が催され、思わず声を上げたくなるのを口を押さえて飲み込んだ。大鳳の濫りがましい嬌声に殺意を抱き、彼の荒 い口付けの吐息が、胸を辛く痛ませる。目尻から涙を流すまま、透視でもしているかの如く、ひたすらその底板を睨んでいた。 だが耳をそばだて続けていると、一つの救いが垣間見えた。大鳳のその懇願が無視をされたらしい事。提督から愛しているという言 の出なかった事に、至上の喜びを覚えた彼女でもある。別れを告げて半年が過ぎても、未だ心はすぐ側にあったと気付き、感動が胸を 馳騁する。 この行為にあてつけと慰め以上の意味は無い。寝具に阻まれていようとも、たとえ実際に抱かれているのは大鳳なんだとしても、精 神の交錯は今この場においても成っているのだ。 思わず彼女は 「私、浮気には寛容です」 極々小さく、一寸先の人にも聞こえないような声でそう呟いた。 寝具の上の遊戯は、もうすぐ終端を迎えるらしい。中に出すぞという彼の言葉が、甘く耳の側に響いた気がした。 彼女の心内は、甚だ複雑な様相を呈していた。胸をのたうつ嫉妬の情は、一向に烈しさを増すばかりだが、直上の彼の姿を想像すれ ば途端に甘い悦楽が湧き出してくる。 彼の思考にあるのは自身であるはずだった。ならばその吐き出される精も、向かう先は自身なのだ。ただ物理的に受け止める艦娘が違 うだけであって、故に彼はまだ私のものだ。 祥鳳は心の中に、そう独り言ちた。目の前の板に触れてみる。まるでそのまま貫通し、彼の体躯を抱きしめにいくかのように。 大きくなった吐息の音を聞き、祥鳳の女陰もまた独りでに蠢いた。今、空想と吐き捨てるには余りにリアルな触感がある。容赦なく 押し広げてくる堅い彼と、その先端から注がれる白濁の温かさ。出し終えた後も、彼は二、三回ほど奥を突くのだ。限界まで吐き出され た精が、更に深くへと押し込められる。その歓喜が完璧に再現された。 彼女もまた、彼らと同じく、絶頂を覚えていたのだった。肩が強張り足は伸びて、嬌声を我慢するのにはかなりの労をとっていた。 恍惚の表情は、しかしおぞましい凄みを発してもいる。涙は留らず口角は吊りあがり、瞳が異様なほど燦爛としていた。 提督を取り戻す、提督を取り戻す。口の動きだけで、彼女はその言葉を繰り返し続けた。 <続く> これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/91.html
「昇進するって、誰が? …えっ、あんたが!?」 私の言葉に司令はコクリとうなずいた。 そして、口で何か言う代わりに、本部からの高速暗号通信を見せてくる。 いつだって、この司令官は無口なのだ。無口で、鈍感。 「ちょっと見るわよ…へーぇ、こんな大艦隊を指揮するようになるのね、あんたもやるじゃない」 通信文には、私の司令官を海域突破の功によって昇進させる旨、そして新しく彼の旗下に入る艦隊の詳細が書かれている。 その艦隊に、私、叢雲はいない。 「ふぅん、やっぱり配属は変わるのね。でも、気候もいい土地じゃない。ま、せいぜい頑張りなさい」 次なる彼の赴任地、これも、ここから遠く離れた南方の泊地だ。 要するにこの通達は、私たちの関係の終わりを示していた。 もちろん、関係、って変な意味じゃないけれど。 彼が司令官としてここに着任して以来ずっと、司令と旗艦という形で上手く(まぁ、衝突もそりゃ絶えなかったけど)…上手くやってきたこの間柄も、もう終わりなのだ。 …あぁいけないいけない。私がこんなしんみりした調子じゃ。 こいつはこれから大事な艦隊を預かる身なんだから、気合いを入れてやんなくちゃ。 「ほら、なーにをしみったれた顔してんのよ! 昇進よ、嬉しくないの!? この私が喜んであげてるのよ?」 そう言ってぺしっと肩を叩いてやると、ようやくこいつも我に返ったらしい。 若く精悍なその顔が、こっちに向き直る。その仕草に、一瞬ドキッとしてしまう。 「あ…あぁ、いや、すまない。ちょっと俺も気が動転したんだ」 「こっちの台詞よ。ヘボでモグリのあんたが出世するなんてね…ま、素直に祝ってあげるわ。まだ、言ってなかったわね…おめでとう」 「ああ。ありがとう…」 私からの祝福に、司令は肩をすくめてお礼を返してみせる。 「うん、本当によかったわね…さて、夜も遅いし私はおいとまさせてもらうわ。あんたも明日から任地へ向かうんでしょ? それじゃ、おやす…」 「ま、待ってくれ…叢雲っ!」 突然に、司令は私の手をぎゅっと握ってきた。 今まで私の手や肩に、触れようとしたことさえなかったのに(まあ私が、酸素魚雷を食らわせるぞって、最初に脅したせいでもあるんだけど)。 おかげで私はすっかりパニクってしまう。 「そ、その…なんだ、ほ、本当にありがとう…叢雲」 「へっ…な、何!? どうしたってのよっ!?」 「い、いやその…お前には、ここに着任したときから、ずっと色々、艦娘の扱いとかを、お、教えてもらってきただろう!? だから俺は叢雲に、す、すごく感謝しててだな…!」 私の目の前で司令は、口をぱくぱくさせて、言葉をつっかえさせてる。慣れないことをするからだと思う。 顔までそんなに赤くしちゃって。 正直ドギマギして、こんなこと言われるだけで心臓をばくばくさせてるのは、私の方だっていうのに。 「む、叢雲っ、俺は…お、お前のことがっ…」 「ちょ、ちょっと離してってば、バカ!!」 あろうことか、私はその手をふりほどいてしまった。 その瞬間、司令の顔が、子供のような呆然とした表情に変わるのが見えて、私の胸がちくりと痛む。 「…………!!」 私は、もうおやすみの言葉も言わずに、後ろを向いて駆け出すと、執務室を後にしてしまった。 取り残されたように佇む司令を、一人そこに残して。 私の、バカ、馬鹿、ばか。 私は部屋に帰ると、寝巻きにも着替えずにベッドに突っ伏していた。 どうして私は、私を求めてくれる司令の手をはたき落として、拒絶してしまったんだろう? 司令は私との別れをもっと惜しみたかったのかもしれない。 司令は私を……好き、だとかなんとか、言ってくれるつもりだったのかもしれない。 司令は私を、抱きしめてくれようとしたのかもしれない。 でも、そのどれもを私は、あんな風に手を払いのけて、突っぱねてしまった。 「…なんで、素直になれないかなぁ…私」 無口でモグリで融通が利かないけれど、そんな司令に、私は…いつの頃からか好意を持っていた。 ううん、好意なんてもんじゃない。好き。 いつか私の口から言おうと思っていた、その言葉。 それを朴念仁のあいつの方から、しかも明日には別れるという頃になって、あんな風な余裕もない、ムードもない告白をしようとするもんだから。 だから、私は嫌になって逃げ出してしまったんだろうか? …けれどもう私には、今から引き返して、彼に好きなんて言うことは出来ないだろう。 私にはその勇気がない。資格もない。 ホントはあいつは、有能だ。この水雷戦隊を率いるだけに収まる器ではないのだ。 いち駆逐艦にすぎない私が、彼を引き留め、栄光の座から遠ざけるなんてことは、きっと、誰のためにもならない。 そう、だから私は、自分からこの恋を諦めることに決めたんだ。 「……ん、あれ…な、何でかしら…っ」 そう考えると涙が次々、つぎつぎと溢れてきた。 彼を思う涙だろうか? …いや、この先いくらでも出世して、人の尊敬を集めるだろうあいつの未来を考えたら、涙なんて流れるはずはない。 これは自己憐憫の、汚い涙だ。私は流れ出るソレを拭う。消えてしまえと思う。 私は、暖かく湿らせたタオルを目にかけて、横になって眠ろうとした。 泣き腫らした目なんかで、彼を見送るわけにはいかない。 明日は笑顔で、あいつの門出を見送ってあげなくちゃ――。 (あ……司令の…うで、だ) 夢の中で、私は司令官の腕につつまれていた。 たくましい腕が、私の髪や頬を優しく撫でさする感触が伝わってくる。 それが夢だと気づいたのはもちろん、今まで司令がそんな風に私に触れたことなんて、一度もないから。 すぐに、こんな破廉恥で虫のいい夢を見る自分を、あさましい女だと思った。けど同時に、もう少しだけこの夢に浸っていたいと思う私がいる。 夢の中の彼は、私の上に覆いかぶさるようになったかと思うと、次の瞬間、私の唇にそっとキスをしてくれた。 それだけで私は嬉しくてたまらなくって、涙が出そうになる。 (司令……司令っ…!) 声を出して彼を呼びたかった。けれど私の喉は張り付いたようになって、何の音も漏れない。 これが夢の不条理というやつ? そうして私がおとぎ話の人魚姫のように声も出ないままでいるうちに、今まで私の髪や頬を撫でていた彼の腕が、だんだん下の方へ伸びていくのを感じた。 (えっ……ちょ、ちょ、ちょっと!! ダメ、ダメだって!!) 頭ではそう思いつつ、私は制止することが出来なかった。 どうやら、声が出ないのと同じく、私は手も足も、文字通り指一本動かせないのだ。なんて夢。 抵抗できない私をよそに、司令の手は、私の薄い胸の上を、無造作に突き出た足を、スカートとストッキングに守られた私のお尻の上を、欲望に突き動かされたような手つきで這い回っている。 暖かい口づけをしてくれた彼の唇からも、いつしか、荒い、興奮した様子の息が漏れていた。 と、私の下半身を探っていた一方の手が、スカートの下に潜り込むと、私のストッキングとその下のパンティを、いっぺんに掴んだ。 (やっ…やだ…!! ありえないっ…!!) たとえ夢とはいえ、こんなこと、私は望んでない! 私は必死に目を見開こうとした。夢の中で、目を覚まそうと。 (……え?) 私は一瞬、状況が飲み込めなかった。 何が起こっているのか。私の体に、何が行われてるのか。 「叢雲…叢雲っ…!」 目を開けると、さっきの夢とよく似た光景がそこにはあった。 私の体はベッドに横たえられている。 そしてそんな私の上に、司令が――信じられないけれど、今度は夢ではない――司令が、覆いかぶさっている。 けれど、感触は。胸や、背中や、お尻や…口では言えないようなところまでを、ところ構わず這い回られる、その感触は。 夢の中よりずっとリアルで生々しいもの。 そう、夢の中と同じく私の体は、ベッドに這いつくばって私を見下ろす司令の指に、手によって、蹂躙されていた。 (し…司令…!? ちょっとウソ…何を…っ!) 叫ぼうとしても声が出ない。こんなところまで夢の中と同じなんて。 けれど少し事情が違うのは、私は理由なく声が出せない訳ではなく、口に詰め物がされているのだった。たぶん私が寝る前に瞼に被せた、温タオル。 身をよじらせて抗議しようとしたけれど、どうやら腕は、すでに脱がされた私自身の上着で、頭の上でひとつに縛られ、動けなくされている。そして足は司令の膝の下に抑え込まれていた。 私が夢で触れられているとか、動けないと感じていたのは、全部、現実に起こっていたことだったのだ。 執務室を飛び出たあと私は、たぶん鍵をかけることも忘れて、寝入ってしまったんだろう。 夢の中のすべては、寝ている間に彼が部屋に忍び入って、私の体にしたこと。きっと、もっと乱暴だったに違いないけど。 (どうして、こんな……っ!!) あまりの理不尽に、困惑や涙より先に、怒りがこみあげてくる。 これではまるで、レイプだ。 私は組み敷かれて、動けない体をいいようにもてあそばれている。 それも見ず知らずの誰かでなく、想いを寄せていた相手に。 なんで、こんなことを、と叫びたかった。 私が何度か首を振ってもがくと、ようやく口にされていた詰め物が唾液の糸を引いて取れた。 「や…やめなさいっ!! あ…あんたっ…なに考えてるのよっ!!」 私の声は、自分でもみっともないほど恐怖に震えていて、ほとんど意味を成してなかっただろう。 けれど司令は、それで声を抑える詰め物が取れたのに気づくと、とっさに自分の手で私の口を再びふさぎ、私はまただんまりを強制された。 その時、私に向けられた目は、あの時、執務室で私がその手を払いのけた時と同じ、子供のような―― 泣き出す直前の子供のようなあの目と、そっくり同じだった。 私に向き直ったのは一瞬だけで、すぐに司令は、私の首に顔を埋める。 そして、唇が私の首元に近寄せられ、激しいキスのような勢いで、その部分が吸われた。 (~~~~~~~っっ!!!) 甘い電流のような痺れが、私の体を襲った。 ちゅうっ、と音が立てられるのを、私の頭は、あの夢の優しいキスの続きででもあるかのように錯覚してしまう。 「叢雲…」 司令はうわ言のように、私の名前しか繰り返さない。 彼は私の首の付け根から離れると、その唇をさらに下の方へ、鎖骨を下り、私の胸へと滑らせていく。 そうだ、もう上着は脱がされているのだから、私の胸は裸のまま、たぶん私が起きたときからずっと、彼の前にさらされていたのだ。 そのことに今さら気づいて、私はかあっと赤面する。 そんな私にお構いなく、司令の温かい唇は、私の肌の上を転がるようにして、ついに胸の先端にたどり着くと、それへと舌を這わせた。 (い…やぁっ…! ………ああぁっっ…!!) きっと、口をふさがれていなかったら、乞うような嬌声を上げてしまっていただろう。 まるで彼に触れられた部分に次々新しい神経が通っていくみたいに、全身の感覚が一点に集中する。 舌で舐られるたび、私の胸の先っぽが、もう快感につんと立って主張しているのが自分でもわかって、また火が出るほど恥ずかしくなる。 こんな乱暴な愛撫の一つ一つに、私の体が馬鹿みたいに反応してしまっているのに、彼もとっくに気が付いているはず。 手に唇に触れられただけでビクンと体は震え、耳も顔も真っ赤になってる。 私のこと、夜這いをかけられて、組み伏せられて、興奮してしまうようなヘンタイ艦娘だって思うだろうか? (私だって…ホントはこんなの……っ!) ホントは、こんな風なの、望んでなんかいない。 私だって、恋をする女の子だ。司令の腕に抱かれたり、ついには体を許してしまうのを、想像したことだって幾度かある。 けれどそういうのは、愛の言葉を囁いたり、おたがい抱きしめ合ったり、キスをしたり、そんな優しい、愛の手続きの後で行うものだって、そう私は空想していた。 それなのに、何で、こんな――。 必死に足を動かして、彼の体の下から逃げだそうと試みるけれど、膝から下を体重をかけて抑え込まれているから、もがくことしか出来なかった。 しまいには口をふさいでいる手にかじりついたりしたけど、ちっとも動じない。 そうこうしているうちに、司令の自由な方の片手が、私の太股の部分に、すっと触れる。 手のひらと四本の指は、ストッキング越しの足の手触りを楽しむように、そして親指は、私の下着のクロッチ部分の上に―。 (――やっ……あっ、ありえないって、こんな…!!) 自分でも触れたことのない部分を刺激されて、未知の感覚が私を襲う。 司令の親指は私の女の子の部分を、その縦筋を二重の布の上からたしかめるように、何度も上下する。 そのたびに痛いような、疼くような、もどかしい感じが私の頭に走り抜けるのだ。 やがて二本、三本と、ぜんぶの指が責めに加わった。 まるで私のあそこがすっぽり、彼の手の中に収められてしまったみたいな感覚。 上も下も、すべての部分を、絶え間なく私は責め立てられてゆく。 くち、くち、と下着の中からは、おしっこを拭くときみたいな、恥ずかしい水音が漏れている。 私の耳にも、彼の耳にも聞こえる水音が、響きわたる。 ずっと、はぁはぁと荒かった司令の息づかいが、さらに昂ぶるように、速まっていく。 恐怖と、恥ずかしさと、困惑と、気持ちよさで、私がもう何もわからなくなりそうになった頃。 びびびっ、と音を立てて、ストッキングが破られた。 (あ……) ちょうど股間部分が破かれて、空気にさらされたのが分かる。 続けて、いつの間にベルトを外したのか、司令は軍袴を膝まで落とすと、性急な手つきで下帯も脱いだ。 暗くてはっきりとは見えなかったけれど、黒々と屹立したシルエットが、その下から現れていた。 「叢雲――」 激しい息づかいの中で私の名前を呼んで、司令が、私により深くのしかかる。 くい、と、パンティが指で横にずらされたらしかった。 そうして露わにされた私の大事なとこに、こんどは指じゃない、さっきの屹立したモノが、あてがわれる感触がある。 熱いソレが、にゅち、にゅち、とぬめる入り口を、なぞっている。 いやだ。 背筋に悪寒が走る。 私は、他の艦娘にくらべて、エッチのこととかなんとか、そういう興味は薄い方だと思う。 他の子たちが、キャーキャー言いながら回し読みする春本だって、ほとんど手にとって眺めたりしなかった。 けれどこのとき、司令がこれから何をしようとしてるのか、直感的に私は悟った。 いやだ、やめて! あんたのこと、嫌いになりたくない。 お願い。 口を動かせない私の頬を、涙がつたった。私の口をふさいでいる司令の手にもそれがぽたぽたと落ちる。 司令がはっと気づき、私と彼の目と目が合う。 むらくも、と彼の唇が動く。 彼の目に、いま私はどう映ってるんだろう? 元秘書艦の女の子? それともただの性欲のはけ口? さんざん生意気で横柄な態度をとっておいて、いざ押し倒されたら涙で許しを請おうとする、馬鹿な小娘? 「お前が…お前がいけないんだ、叢雲……俺の気持ちに気づかないから…」 その言葉は、まるで司令が自分自身に言い聞かせてるみたいだった。 それだけ呟くと、彼は私の顔から目をそらして。 一気に腰を進めた。 (…………………っ!!!) ぷつっ、と。 何かが弾けるような感触と共に、私の中に、熱いものが押し入った。 ダメ、痛い。やだ。やだ。やだ。やだ。痛いっ、痛い! 頭には、それしかない。 私の体は全力で締めつけて追い出そうとするけど、力負けして、鉄柱のようなそれが結局、おへその下まで入ってくる。異物感がすごい。 どう考えても私の中にそんなスペースなんてないと思うのに。 彼が弾丸で私の下腹部に穴を穿って、ぐりぐり押し広げているんじゃないか、そんな錯覚すら覚えた。 「……ふっ、ぁ……叢雲…っ!!」 そんな私をよそに、彼は感極まったような声を上げる。 ゆっくりと、段々と激しく、引き抜いては私を突き上げる。こっちは痛いってのに。 私が痛みで腰を引こうとすると、お尻を手でつかまえられて、押し戻された。そのせいで、司令の先端が、私の最奥をゴリゴリとこする。 ずちゅっ、ずちゅっ。 そんな間の抜けた水音が、司令と私の腰が、繋がったり離れたりするたびに響く。 私の激痛なんてまるで関係ないみたいで滑稽だった。 滑稽と言えば、このベッドがきしむ音も、司令の必死な息づかいも。 早く、はやく終わってほしい。 私はもうただそれだけを祈っていた。 今はけだものみたいになってる彼も、ひとしきり満足したら、元に戻ってくれるだろうか? 『お前がいけないんだ、叢雲……俺の気持ちに気づかないから…』 頭の中で勝手に、さっきの彼の言葉がくり返される。 一体、どこでボタンをかけ違ったんだろう? 鈍感で、朴念仁だなんて、ののしっておきながら、私こそ司令官の気持ちを推し量ろうとしなかった。 もし私が勇気を出して言っていたら。 もしあの手を払いのけなかったら。 こんな風にはならなかったかもしれないのに。 でも、もし私のことを好きだっていうんなら、なんでこんな酷い仕打ちをするんだろう? 好きだけど、それでも私があんまり生意気な子だから、痛めつけてやりたかった、とか。 ――この体の痛みも、胸の痛みも。罰なんだろうか。 「叢雲…叢雲っ……!」 熱に浮かされたみたいな彼の声で、現実に引き戻される。 ピストンがいちだんと速くなったかと思うと、私を突き上げてた剛直が、勢いよく引き抜かれた。 あ、と考える間もなく、熱い飛沫が、私の下腹に、二度、三度と飛び散った。 熱湯がかけられたかと思って、つい、ひゃあっ、と声を上げる。 と、ここで私はようやく、口をふさいでいた彼の手が、どけられたのに気がついた。 「あ…」 気づくと、司令が私の顔の横に手をついて、私を見下ろしていた。 呼吸はさっきほど荒くない。落ち着いてきてる。 状況が違えば、ドラマによく出てくる、男が恋人を押し倒した直後みたいな構図だ。 ふいに司令が、すっと私の顔に手を伸ばす。 「や…やめ…っ!」 私は反射的に目をつむってしまった。 何かまだ、ぶたれたり、もう一度、犯されたりするんじゃないかと思っていたから。 そんな私の頬を、温もりを持った指が、優しく拭っていく。 身をすくめていた私が、おそるおそる目を開くと、司令は身を乗り出して、私の頭の上、拘束されてた私の手首の縛めを、ほどいてくれていた。 放心した頭で私は、終わったのかな? などとぼんやりと思った。 …何が? 相変わらず司令は私の上で、言うべき言葉を決めかねているみたいな顔をしている。 「痛い…」 私がぽつりと言った。じっさいそれは、正直な感想だ。 縛られてた手も痛いし、抑えられてた足も、あそこも…。 「だろうな」 司令はそう返す。 ああそうね、「すまない」なんて言ってたら、きっとぶん殴ってるところだわ。 …そうだ、私にこれだけ酷いことをしておいて…今さら、優しさなんか、いらない。 徹底的に私を、慰みものにでも、すればいいのに。 でも司令は代わりに、部屋にあったティッシュで、私のお腹を汚してた精液と、破瓜の血とを拭ってくれていた。 「………なんで、そんなに優しく、するなら…」 だったら何で、最初から優しく、してくれなかったの。 途中から、また溢れてきた涙で言葉にならなかった。けれど彼は意味を察したらしい。 「…お前に、徹底的に嫌われたかったから」 私のいない艦隊なんて考えられなかったから。私に想われないで去るくらいなら、いっそ壊すくらいに痛めつけて、一生私の心の中に残りたかったから。 司令はそんな風に訥々と語る。 それを聞いて私は、ああ、この人は馬鹿だと悟った。 私と同じたぐいの、馬鹿。 司令を好きでいるのが辛くて、司令の告白を聞くのが怖くて逃げ出した私と。 私に愛されてないと思い込んで、いっそ私にひどく嫌われようと想ったこの人と。 救いようのないくらいの馬鹿二人だ。 「叢雲……俺を軍令部に訴えて更迭するなり何なり、好きにするといい…お前がいない場所なんて、どこだろうが変わらないからな」 司令はベッドサイドに腰かけ、何かもう、達観したような口調で言う。 私から顔をそむけて、私に未練を持たないようにしているんだろうと思った。 「…そうね…こういうのはどう? 代わりにあんたが、私のお願い、何でも一つ聞くの」 彼の背が、ぴくっと動く。 私が提案なんかしたことが意外なんだろう。 「…ああいいよ。深海棲艦の巣に飛び込めって言うなら、そうしよう」 「バカ。そんなこと、死んだってさせない」 司令の背中から、私はぴたっと抱き着く。裸の大きな背中が、私を抱き留めてくれてる。 「む…叢雲!?」 明らかにうろたえる彼を制して、私は伝えた。 私の「お願い」を。 「私を、あんたの新しい艦隊に入れて、今まで通り秘書艦にして。あんたのコネだろうが、何だろうが全部使って、ねじ込みなさい」 「叢雲、お前…」 司令が驚いて私に向き直る。その顎をつかまえて、私はそこに唇を重ねた。 私からのキス、私の初めてのキスだ。 キスは、とくにレモンの味なんてしなくて、唇に流れた自分の涙の味がした。 あと、司令のヒゲの剃り跡がちょっとざらざらする。 三秒くらいそうして唇を合わせていて、やっと離してから、私が言う。 「…あんたがいないとこなんて、どこへも行きたくないのは…私だって同じなんだから」 一緒よ、ずっと。 それだけ言うと、彼がすごい勢いで、私を抱きしめてきた。 むらくも、叢雲、と。私の名前を必死で呼ぶ。 いいのよ、と私は言う。 私たちお互い、馬鹿なんだから。きっとこうでもしなきゃ、伝えられなかったから。 それから私たちはしばらくの間、抱きしめ合ったままでいた。 まるで今まで足りなかった言葉を補うみたいに、ただ抱きしめ合っていた。
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/338.html
341 :名無しさん@ピンキー:2014/03/27(木) 01 25 35.00 ID nnF6QNMd 陵辱モノ追撃します。 深海棲艦の拷問による摩耶様の闇堕ち。 触手・陵辱・微レズというキワモノなので苦手な方はご注意。 もし連投規制に引っ掛かったら気長にお待ち下さい。 342 :341:2014/03/27(木) 01 28 51.40 ID nnF6QNMd 右腕。左の足首。胸先。そして―― あちこちがずきずきと痛む気だるい身体の感覚に、ふと艦娘『摩耶』は目を醒ました。 (ここは…) ぼんやりと周囲を見渡す。幽かな青い燐光に照らされた荒野。不気味なほどの静けさ。 呼吸は出来る。頭上には空の代わりに、圧倒的な質量の海水。奇妙な空間。――深海。 (そうか。アタシは沈んじまったんだ) 他の気配が無い以外、状況は一切変わっていない。 限界を超えた快楽に、失禁しながら気を失ったあの瞬間から。 蒼くて深い、孤独な海の底。 両腕は赤子の手首ほどの太さの動かぬ触手に頭上に縛り上げられ、全裸の身体はごつごつとした岩に腰掛ける形で、両脚は大きく開かされたまま―― 塗り付けられた黒っぽい謎の粘液にひりつく性器、感じて感じて感じ過ぎて壊れてしまったのか充血したままの花芯までもを外気と燐光に晒されたまま隠すこともできず、まるで堅固な鎖を思わせる硬質の触手で手足を海底に絡め取られている。 撃沈のときから二日か三日か、ここで性的な玩具にされ始めてからの正確な時間の感覚はもはやない。 装備と衣服を剥ぎ取られ手足を拘束され、抗うことも死ぬことも許されず。 たった一人で異形に囲まれ弄ばれる恐怖の叫びも、肉体をなぞる無数の触手とざらつく舌から与えられた快楽に喉が嗄れるほど放ち続けた喘ぎ声も甘ったるい悲鳴も、昏い水底に飲み込まれていった。 死ねない、狂えない、兵器の強靭さと若い娘の性感の両方を持って生まれた我が身の不幸を呪わずにはいられない――ここはまさに地の底ならぬ、海底に用意された獄。 拘束する触手に多少のスキがないかと、無駄と知りつつぶらぶらと手足を揺らしていたとき。 摩耶は視線の先に違和感を認めた。暗い海の底から沸き上がるようにゆらゆらとした、空間の瞬き。 (…また来やがったか) やがてそれは、二つの異形の人型を結ぶ。 完全に実体を得た、自分を見下ろす二対の冷たい眼には、昨日の奴らとは違う感情が浮かんでいるようだ、と摩耶はぼんやりと思う。 ――コノモノセイキヨウナリテ、イマダゼツボウニソメルニアタワズ。 沈没直後の自分を拘束しその触手で散々に嬲った、鎮守府が『深海棲艦・ヲ級』と呼ぶ異形を纏った青灰色の少女が抑揚のない声を発すると、 応えるかのようにもう一人の娘――先が巨大な怪物の顔となった尾を持ち、対照的に小さな体躯を黒衣に包んだ見覚えのない個体――が、微かに笑いながら口を開いた。 ――テキカンニモサマザマアリテ、ママワレラノ"ヨリシロ"タルウツワモアルヤモシレズ。 その言葉は辛うじて理解できるが、内容は摩耶には良く理解できない。 「新しいお友達かよ…何度も言わせんな」 久しぶりに出した声。ざらざらと掠れてはいるが、まだ役目を果たせないほど壊れてはいない。 「アタシは味方に砲を向ける位なら、ここでお前らのオモチャになって狂って死ぬ方がマシだ」 二隻の深海棲艦を睨み付ける。 いつまで正気でいられるかは分からないが、せめて最期まで抵抗したい。 そんな空虚なプライドから放たれたタンカが、わずかながら自分を勇気づけるのを感じて摩耶は少しだけ嬉しさを感じる。 「…アタシはこんなもんじゃ全然満足してねぇぞ。今日は多少はテクを見せてくれんだろうな?」 ――そうだ。これでこそ、アタシだ。 ――ハンノウヲミタイ。サイドノホキユウヲモトム。 ――リヨウカイシタ。ホキユウヲカイシス。 新型の言葉に呼応したヲ級から伸びた灰色の触手が、摩耶の身体に巻き付いてゆく。 「あっ……あっ……」 反射的に、恐怖が摩耶の表情を彩る。 首筋に到達した二本の触手が、動脈のあたりを撫で始めた。 生命の急所を責められても拒否も抵抗もできない、するすると首に巻き付く巨大な恐怖に摩耶は知らず身体をすくませる。 どういう理屈なのかその状況で固く勃ち始めた摩耶の乳首を狙うように、別の触手が震える乳房に巻き付いた。 「くあぁぁぁぁぁッ…」 ぬめった感触が、まるで刺激を望むかのように淫らに色づいた右乳首をかすめた瞬間、電流のような快楽が摩耶を襲った。 触手を覆うぬめりに薬物のような作用があるのか、異様に感じやすくなっている自分の身体が恐ろしい。 「うあっ、あっ、はっ、…畜生…ッ!」 左右の乳首を容赦なく擦るように、触手が乳房をやわやわと揉み潰しながら這いずる。たったそれだけの刺激で目に涙が浮かび、達してしまいそうになる。 ばさばさになった髪を激しく揺らし抵抗を示しながらも、摩耶の肉体は更に感じやすく昂り、女陰は意志に関係なく『出来上がって』ゆく。 「くそ…胸に…触るな…!」 そこへ一本の触手が獲物のにおいを見つけ出したかのように、柔らかな太ももに巻き付きはじめ、上を目指して―― 「…やめろ…やめろぉ…そこは………ッ!!」 性器にぐいぐいと押し付けられる、おぞましい感覚。しかし必死に払い落とそうとするも両手は封じられて動かず、ただかすかに身体を揺らせるのみ。 「うあっ!?」 唐突に両足首を物凄い力で触手に釣り上げ開かされ、摩耶の秘所が上を向いてぱっくりとぬめる口をあけた。 あられもない格好に頬を深紅に染めた摩耶が何かを言う前に、露わになった秘裂の奥を目掛けて、ずぶずぶと触手が入口から胎内に沈んでゆく。 「あぁぁぁぁんッ!やだっ!やだあぁぁッ!やめてえぇぇぇッ!」 気を張っていた摩耶の何かが限界に達し、少女のような悲鳴が、喉を反らした屈辱的な嬌声が高く甘く海底に響き渡る。 「あっ、はっ、うあぁっ!」 最奥に達した触手が波打つように蠢きはじめると、摩耶の身体がそのたびに与えられる苦痛と快楽に震え、跳ね上がる。 更に容赦のないヲ級のもう一本が、異物を挿入され張り裂けそうな秘唇の上でてらてらと淫らに光る敏感な核を、ごりごりとしたその先端で圧し潰すように強く強く擦りはじめた。 「あぁん!んはぁ、ひぁあ!…もう…やぁぁぁッ!ぃ…く…ぅッ!」 背骨が折れるほど身体を反らし、白目を向いてびくびくと大きく痙攣しながら摩耶は達した。 ずちゅずちゅと、彼女自身が大量に分泌した雌汁を跳ね上げるほどの勢いで入口から最奥までの往復を繰り返す触手に、更にもう一本が加わり――容赦なく、摩耶の秘所をずぶりと貫く。 「いやあぁぁぁぁぁ――――!」 二本の太すぎる痛みが、張り裂けそうな膣内でぐねぐねと蠢く。それぞれが膣壁を擦るその感触が、摩耶を絶頂からいつまでも解放しない。 「いやっ、いやっ、ああああ――」 ぬらり、と触手の先端に子宮の入口を撫でられた瞬間、絶頂感の更に更に上、この世のものとは思えない狂気的な快感が摩耶の全身の毛孔を開かせ、眼を見開いての金切り声が自分の耳すら痛めつけた。 不安と恐怖に苛まれ、極限の快楽を流し込まれ、心臓がどくどくと痛む。 腰の奥が甘く切なくどうしようもなく疼き、脳髄には容赦なく苦痛と快感が交互に同時に突き刺さってくる。 ――やめて。もうやめて。殺して。お願い。 ひくひくとだらしなく濡れた肛門から更に一本が侵入を試みてきたとき、白くちかちかと瞬く目蓋の裏で、摩耶は本気で死を願った。 だが。 最後まで、彼女は言葉で敵に慈悲を乞うことを自分に許さなかった。 下唇を血が滲むほどに噛みしめ、耐える。 …違う。 死ぬべきはアタシじゃねぇ。 殺す。こいつら必ずブッ殺す。コロス。コロス! 「……!」 二体の深海棲艦を睨み付けた、視線。 屈辱を殺意に変えての、決して屈伏せぬ野獣の気迫を見せた、その途端―― ――リカイシタ。ホキユウサギヨウヲテイシセヨ。 喘ぎなから嬲られる彼女の恥態をじっと見つめていた新型がそう言いながら腕組みを解くと、最後まで表情を変えなかったヲ級の触手が四肢の拘束のみ残して一斉に引いた。 がくん、と解放された摩耶の身体が糸の切れた人形のように横たわった。意外に細い肩だけが、熱い息、荒い呼吸を弾ませる。 ――ドウホウニツグ。コレヨリコノモノ、トウカンノアズカリトス。 珍しい昆虫を見つけた少年のような、好奇に似た表情を浮かべた黒衣の娘が、周囲の空間に向かって何かを宣言した。 ぐったりとした摩耶へ近づき、そのまま彼女の形の良い顎を指先で軽く上向かせると、にっこりと笑いかけ―― 「――強いね、キミ」 「な…!」 流暢にして甘美な『声』。 「だからボクが、たっぷりとおもいださせてあげる。君がなぜ、何をするために産み出されたモノであるかを」 「そんな…ん、む…」 更に、驚愕に目を見開いた彼女に与えられた、甘く柔らかな口づけ。 完全に隙を衝かれる形となった摩耶の心は震え、魂は混乱する。 停止させられた白紙の思考に与えられる、温かくねっとりと口内を犯す舌使いの感覚。 暴力しか与えられなかった女の本能がその優しさに、奇妙な唾液の味に、歯髄をなぞる相手の舌の感触に、脳髄を鈍く甘く痺れさせていき―― 「……んっ」 摩耶は自分でも意識しないままに、やがてその瞳の奥の光をとろかせ、ただ柔らかく心地よい相手の舌の感触を更に味わうべく、自ら舌を絡ませていた。 それが『終わり』であるとは、彼女はもはや、考えることができなかった。 *** 『――緊急警報、メイデイ、メイデイ。哀れな戦艦『長門』さんはこれから10秒後に撃沈します。総員退避をお願いしまーす』 猫がネズミをいたぶるような、猛禽が飛べぬ獲物を嘲るような。呪わしい声が、通信録音の内容として会議室に響き渡った。 『逃げろ…提督ッ…!…うあぁぁッ!』 微かに聞こえた長門の絞り出すような声が、悲鳴に変わる。 『聞いてるかぁ?クソ提督さんとその他一同よぉ。今日がてめぇらのめでたい沈没日だ。楽しい楽しい深海に、鎮守府御一行様を全員ご案内してやるぜ』 『…何者だ。貴様』 耳障りな笑い声に、怒りと困惑の篭った提督の声が割り込んだ。 『つれないねぇ提督。この声を忘れやがったか』 『なんだと……まさか……お前、先日の戦闘で……』 『帰ってきたんだよ。アタシは深海棲艦たちの依代となって、本当の自分をやっと手に入れた――じゃ、すぐ着くぜ。首でも洗って待ってなよ』 『…待て!『摩耶』ッ!』 ぶつっ、という不吉な音と共に――おそらくは長門の運命と共に――通信は終わった。 「…対潜哨戒に当たっていた『長月』『菊月』から連絡が途絶えたのはおよそ一時間前。そして威力偵察に向かった『長門』『加賀』からのこの通信はおよそ10分前――おそらくあと30分もせず、摩…敵艦はこの鎮守府に到達する」 鎮守府内作戦会議室、緊急招集を掛けられた全艦娘に向かって重苦しい口調で伝える提督。 と、突然、沈黙を破って青ざめた顔の秘書艦『神通』が部屋に飛び込んできた。 「通信報告!『日向』『大和』、共に大破の報有り!敵艦は単艦、なお無傷の模様!」 「全力の防衛線も、まるで無力か……」 新たな報告に拳を震わせ、苦渋に満ちたその表情は、決して迫りくる破滅の恐怖に怯えている訳ではなく。 かつての部下を沈めてしまった後悔と、その後の更に哀れな運命に弄ばれる彼女のことを思ってのものであることはこの場のすべての艦娘が承知していた。 「司令官。私が出る。あの装備をまた、用意してくれないか」 僅かな沈黙の後。一人の艦娘が、意を決したかのように立ち上がった。 「…しかし『那智』、あの試験艤装はまだ調整が……それに、君の船体への…」 「他に手はない。時間もない。……それに、摩耶は私の親友だ。私が、止める」 彼女の意志も、正論も、その真剣な眼差しも、覆す術を持たない無力な提督が導き出せる解答はひとつしか無かった。 「………分かった。……彼女を――頼む」 「そんな顔をするな、提督。心配ない――あの後先考えないバカの後始末は、いつも私が押し付けられてきたんだ」 だから。大船に乗ったつもりで、待っていてくれ。 言い慣れない冗談を言いつつ頼もしい笑顔を浮かべた那智の顔を、提督はどうしても見ることが出来なかった。 「――来たか。摩耶」 鎮守府正面海域。 腕組みをして仁王立ちした那智が、水平線の彼方から現れた異形の艦娘を、殺気を込めた切れ長の眼で睨み付ける。 その右腕には、圧倒的に巨大な46センチの三連砲。 「出迎えはてめぇか、那智。御大層な装備じゃねぇか。それがお前の改ニってか?」 全身をぬめる嵐の色に染め、両の瞳を黄昏の黄金色に爛々と輝かせ。 鎮守府が空母『ヲ級』と呼称する深海棲艦と同様、半裸の身に不気味な怪物を纏わせた異形に身を堕とした『摩耶』が海上数メートルの距離に立ち、嘲るようにそう言った。 「改二ではない。私がこれを装着するのは、これが最後だ」 「お前はお高いドレスは悦ばないタイプだと思ってたぜ?」 「貴様こそ最悪に似合わん帽子だな。首が重くないのか?」 顎を軽く上げて見下しながらの那智の台詞に、下から睨み上げた摩耶が舌打ちを響かせる。 「けッ……まぁなんだっていい。この摩耶様が、五秒で沈めてやるぜ」 「お前は私が止める。『那智・最終試験改装』、推して参る!」 次の瞬間。那智が、後方に派手な水柱を上げつつ先手で摩耶に襲い掛かった。 「…ッ、バカな、なんて船速……!そのタービン音、まさか……」 「みんなが力を貸してくれたのだ――お前を止めるためにな!」 「……『島風』の動力かッ!?」 大きな弧を描き、しかし一瞬で摩耶に背後から近づいた那智が放った主砲――『大和』から譲り受けた海戦史上最強の砲撃が、海を揺らす。 「…くっ!」 「スキありだ!」 辛うじて零距離での直撃をかわした摩耶の隙を逃さず、那智の渾身のサイドキックがその身を捉えた。 速度と重量の十分に乗った破壊力が彼女の身体を大きく吹っ飛ばし、海面にその身を叩き付けた。轟音と共に、海上に機雷の爆発のような水飛沫が上がる。 やがて収まった波紋の中心、腹部を押さえて海上にゆらりと立ち上がった摩耶が、その顔に禍々しい笑みを浮かべた。 「……なにが可笑しい」 「ククク……なるほどその火力と機動性、確かに重巡の身でないと実現できないバランスって奴だ。……だがなぁ!」 一瞬で間合いを詰めた摩耶の拳を、頬をかすらせて那智がかわす。 そのまま至近距離での、格闘戦の応酬。 互いに噛み合う狼のように攻撃、視線、気迫をぶつけ合ううち、那智の表情が一瞬曇る。 「分かるぜ、てめぇの艦体がキシんでやがるのがよぉ!そんなスピードでクソ重い武器、いつまでも振り回せるはずがねぇ!こっちから懐に飛びこんじまえば――」 巧みに誘導された重量が、一気に片足に掛かる。一瞬よろめいた隙を逃さず、摩耶の強烈なタックルが那智の身体の中央を捕らえた。 「ぐはぁッ!」 思わず、那智の肺腑から熱いものが吐き出される。 異形の怪力が、放たれた矢のように海面上を一直線に那智の体を吹き飛ばした。 飛ばされたその先には――鎮守府。 中途に集積されていた資材と接触して派手に吹き飛ばし、 轟音と共にドック施設の外壁に叩き付けられ、 その瓦礫に半ば埋もれるようにして、那智の体はようやく停止した。 「くぅッ……」 「ようやく合点が言ったぜ。そんなイカレた艤装試験にお前が選ばれたのはな、たとえブッ壊れても戦力的に痛くも痒くもねぇからよ。……ちょっと早いがゲームオーバーだ、那智」 追ってついに鎮守府敷地に上陸した摩耶の周囲に、次々と深海棲艦の小型使役獣が現れる。 浮遊するその数はやがて並の深海空母の操る倍、およそ二十を越えた。 「アタシの可愛い艦載鬼たちに粉々に噛み砕かれて、大好きな鎮守府ごと――消えな」 凶悪な笑みを湛えた摩耶が、対象をゆっくりと指し示した瞬間。 飢えた野獣のように、一斉に使い魔たちが獲物に殺到した。 「あっははは!壊れろ、全て!!」 連続着弾の閃光と爆煙が視界を遮る。 やがて彼女の前に姿を現したのは四散した那智の残骸と、廃墟と化した鎮守府―― ではなく。 「バカな……」 摩耶の顔が、驚きに歪められる。 「全機撃墜されただと?あの一瞬、この距離で?!」 「……摩耶。那智は、そしてこの鎮守府は私が護ります」 「『妙高』ッ!!てめぇッ!」 晴れた視界の先にあったのは倒れた那智の肩を抱き、大型の盾を構えた艦娘――。 「野郎……艦娘にイージスシステムとは魔改造にも程があるぜクソ鎮守府ッ!」 「試作型『フェーズドアレイシールド』全域展開。――もはや指一本も触れされませんよ、摩耶」 普段は限りない優しさをたたえた妙高の視線が、強い敵意を込めて摩耶を押さえつける。 「クソッ!那智一隻なら片付いてたものを――」 「単艦では出来ないことが、艦隊ならば出来る。そんな事実も深海に忘れてきたのか、貴様」 那智が額から血を流しながらも再び立ち上がり、壊れかけた砲を構え摩耶を睨み付ける。 「くっ……おおおおオオォ!!」 ケダモノじみた咆哮を上げ、摩耶が再び背後の海上に一瞬で飛び下がった。 「面白ぇ!面白ぇぇ!この摩耶様の全弾一斉砲撃、耐えられるもんなら耐えてみやがれぇ!」 絶叫と共に摩耶の背後から蠢く巨大な十本の触手が現れ、その一本一本が大口径の砲身へと姿を変えてゆく。 「下がった!今だ『足柄』!」 「りょーかい!出し惜しみ無しで行くわよ!」 「何?!」 那智の後方。鎮守府施設屋上に、応えた艦娘が姿を現したのを摩耶は視界に捉えた。 その両肩に抱え上げた、巨大な――途方もなく巨大な、まるで『建造物』と称するのが相応しいような二つの発射装置が、自分に向けられていた。 「12式地対艦誘導弾、発射!……かーらーのー」 ズシン、ズシンと鎮守府の建物を揺るがしながら発射を終えた両肩のランチャーを捨てると、しなやかな右手が天を指す。 次の瞬間。その指示に忠実に従うように、身に纏った艤装のあらゆる場所から発射された小型ミサイルが、足柄の長い黒髪を舞わせながら次々と天へ向かう。 「VLS!行きなさい!」 「ッの野郎オオォォォォォ!!!」 足柄の指先が、砲撃姿勢を中断し回避体制に入った摩耶を指し示す。 正面からの地対艦ミサイルを辛くもかわしたところへ、頭上から艦対艦ミサイルの雨。 連続着弾による紅蓮の爆発に包まれたのは、今度は摩耶の方だった。 「ケッ……こんな小玉の花火!この摩耶様の装甲にゃ目眩まし程度で……」 「目眩ましになれば、充分です」 「!?」 爆炎も収まりかけた頃、すぐ背後から聞こえた声に、摩耶が驚き振り向く――そのとき。 両腕をがっしりと羽交い締めに固められ、振り向くことも出来ないことに気づき、摩耶は激しくもがいた。 「ちっくしょ、ステルス強襲艦仕様かッ!コソコソした弱虫のてめぇにゃピッタリだな『羽黒』ッ!…離せッ!」 「離しません!弱虫な私でも可愛がってくれたあの摩耶さんが私は大好きだったから――これ以上貴方に泣いて欲しくないから、もう絶対に、離さない!」 「誰がッ!泣いてるッてんだ!この野郎がぁッ!」 がつっ、がつっと何度も後頭部を羽黒の顔面に叩き付ける鈍い音が海上に響く。しかし顔を傷つけられつつも、決意に満ちたその細腕は僅にも揺るがない。 「ケッ!だがこんなにくっついてりゃ、他の奴等も砲撃爆撃なんざ出来やしねぇ!覚悟は結構だが、ちっと考えが――」 はっ、と殺気に気付いた摩耶が正面に意識を戻したとき。 漆黒の反り身を大上段に構えた那智の姿が、眼前にあった。 「てめぇ……そいつは……」 「斬艦刀『船切(フナキリ)』。天龍が持っていたものを、更に打ち直したものだ。――これなら貴様のみを、再び深海に葬れる」 「……ッ!」 逃げ、攻め、すべての手を封じられた。 チェックメイト。最強のはずの自分が。こんなにも、あっけなく。 「終わりだ、摩耶。――まったく、散々暴れやがって。結局また私に、後片付けを押し付けたな」 「…そう言うな、これで最後だ。勘弁しろよ、那智」 先ほどまでとは別人のように穏やかな表情を見せた摩耶に、那智のそれが驚きに変わる。 「摩耶…お前…」 「あぁ全く、サイコーに気持ち良かったぜ。兵器としての本分を全うできて、お前とおもいっきり戦えて、アタシは満足だ………泣いてんじゃねぇよ、バカ」 「…バカはお前だ…」 理由の分からない笑みが、思わず互いにつられあうように引き出された暖かくも苦い笑いが、二人の顔に浮かんだ。 ――あばよ。最期に楽しい良いケンカだったぜ。 ――ああ。来世でまた、盃を交わそう――。 視線で言葉を交わした瞬間。 迷いなき刀身の軌跡が、摩耶の頭上に振り下ろされて―― 「…はッ!?」 目覚めて勢い良く上半身を起こした摩耶の視界に入ってきたのは、 薄暗い室内、コタツの上に散らばった空きビンと空きカンと柿ピーの残骸。 思い思いに床に転がり、それぞれ上から軽い寝具を掛けられて安らかに寝息を立てている羽黒、足柄、妙高。そして―― 「起きたのか、摩耶。朝までいても構わないが、風邪を引くなよ」 窓際で一人まだ飲んでいたらしい、那智が静かな視線でこちらを見ていた。 「…こ…ここは…」 「妙高型の居室、時刻はマルフタサンマル。お前は真っ先に酔っ払って寝てしまったがたった今目覚めたところだ」 寝ボケてるのを察してくれたのか、状況をやけに細かく説明してくれる那智。 つまり…… …………夢?!夢オチ?!! え?!っつーかアレ、何? 前半はアレか、最悪、欲求不満がまぁ積もり積もってあんなカタチになってしまったとしても(最近提督も相手してくれねぇし)、 …後半は何だったんだよ?!つーかアタシ悪役似合うな!!なんか妙にイキイキしてたし!! ……な……なんかすげぇはずかしぃ………/// 「どうした摩耶?顔が赤いぞ。本当に風邪引いたんじゃないだろうな」 すっ、と那智の手が額に当てられる。ぼっ、と火がついたように顔が一気に熱くなる。 「い、いやいやあのあのな?だ、大丈夫で、だからその、」 「熱はないようだが。自分の部屋に帰って寝るか?」 「いや、…大丈夫。…今日はお……ここで寝る!」 お前らと一緒にいたい、と危うく出かけた言葉を飲み込んで、摩耶はばさりとコタツ布団に潜り込んだ。 「変な奴。ま、好きにしてくれ」 「なぁ那智よぅ。……お前さ…おもいっきり暴れたい、とか思ったことある?」 「なんだ。面白い夢でも観たのか」 あぁ。傑作だぜ、今日のは。 口の端がにやりと歪むのを、我慢することができない。 夢。夢だった。全部。 嬉しいのか。楽しいのか。単に酔っぱらったか。…うん、それだ。最後のに違いねぇ。 「あのな…」 ――なんだかんだで最高に幸せな、自分の日常。 その夜は、心ゆくまでそれを噛み締めた摩耶だった。 (FIN.) +後書き 349 :341:2014/03/27(木) 01 46 36.19 ID nnF6QNMd 以上、エロパロで何書いてんだという感じですが後半は中二的展開を貫いて満足しました お目汚し失礼しました 350 :名無しさん@ピンキー:2014/03/27(木) 01 47 44.32 ID rylXQN17 あ、ありのまま今起こった事をはなすぜ 珍しい麻耶様のエロが始まったと思ったらスーパー艦娘大戦が始まった… なんにせよ乙、強がりながらも最終的に少女な面を出しちゃうとか最高やないか…
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/570.html
前回の話 「今日の戦艦の防御力は凄かったね~……」 北上が納得の行かない演習結果に疲れたようにぼやく。 「完っ全に作戦が悪かったのよ……」 戦術的には勝利判定となったのに大井も不満気だ。 「………」 その二隻の小言に挟まれる指揮官の自分は、少しではあるが肩身狭さを感じ反論は一つもできない。 練度をひたすらに極めた相手艦隊の戦艦はデータ上は低速であるはずだが、 装甲の厚さと侮れない回避力を前に決定的な打撃を与えられなかったのだ。 それに加え、嘗ての海軍に見限られる程に魚雷とは元来命中率の低い艦装であり、 努力で完全に克服できる柔な宿命ではない事も熟知しているつもりだ。 かと言って本当の意味での重雷装艦とさせた魚雷のみの大井と違い、 比較試験のため片腕に主砲を残している北上が大井よりも良好な戦果を挙げたかと言えばそれもまた難しいもので、 果たして此奴らはどのように運用するのが正しいのか、 長い目で見てきても未だに結論付ける事が出来ないでいる。 北上が言うように此奴ら重雷装艦とは甚だ扱いが難しい船で、戦艦のように単純明快とはいかない。 それでも何故此奴らを使い続けているかと言うとそれは自分の趣味でしかなく、 此奴らにその事を尋ねられた時は何時だって重油を濁してきた。 特に練習艦として使われ続けるうちに作戦内容に敏感になっていった経歴を持つ大井の前でそんな本音をほざいてみろ。 冷たい魚雷でぶん殴られ木の床に沈められるのは目に見えている。 「あらやだ。北上さん、碌な作戦も考えられない提督ったら何も言えないみたいね」 「まあそう言わないであげなよ。提督も提督なりに考えてるんだからさ、って……」 「……やっぱり何も考えてないんじゃないんですか? 提督笑ってますし」 しまった、顔に出ていたか。 私の顔なんか見上げていないで二隻だけで和気藹々と駄弁ってくれればよかったものを。 「笑ってない。作戦は真剣に考えているつもりだ」 焼け石にバラスト水であろうと、念のため取り繕っておく。 次に聞かれたら重油をどう濁すのが格好付くか、とか、 これだから重雷装艦は面白いだとか考えていたのがばれるのは此方としては面白くないのだ。 「いや笑ってたよね」 「笑ってましたね誰が見ても」 「笑ってない」 「笑った!」 「笑いました!」 「笑ってない!」 ああもうゲシュタルト崩壊するからやめてくれ。 馬鹿みたいな言い争いを繰り広げながら廊下の右への曲がり角の一つで立ち止まろうとする。 すると。 どんっ! 「うわっ!」 曲がり角の側を歩いていた北上に突然衝突された。 衝突と言っても小突くような程度のもので、自分に被害はない。 北上はその後よろめいて尻餅を付いた。 正確には、北上に衝突されたと言うより……。 「いったー……」 「ううぅ、またやっちゃ……え?」 同じく床に座り込んで頭を押さえ唸っているのは、軽巡阿武隈であった。 どうやら自分らが五月蝿く騒ぎ立てていたせいで、阿武隈が廊下を走っていた事に気付けなかったらしい。 "廊下を走るな"の貼り紙を"廊下は静かに歩け"と書いたものに変えるべきかもしれない。 阿武隈が掟を守る気がないのか、貼り紙に気付かないのかは定かではないが、どちらにせよ効果は薄そうだ。 「き、北上さん、と、大井さん……」 貼り紙だけでなく私も見えないのか。 書いた者の存在感が薄いと貼り紙もそうなるのか。 怒っていいか。大井が。 「阿武隈ちゃん? "廊下は走るな"って、書いてあるわよねぇ?」 突き当たりの壁に貼られたそれを指差してくれる。 ありがとう大井。大好きだ。 「乱暴な字ですけど」 五月蝿い。 時間が推している時に何枚も手書きした物だから諦めろ。 座り込んだまま次第にこの世の終わりを悟ったような顔に変化していく阿武隈と、それを修羅の顔で見下ろす大井。 それは、何処から見ても蛙と蛇の図だった。 「ご、ごっ……、ごめんなさああぁぁい!!」 耳をつんざく大音量で放たれた謝罪の言葉が、ドップラー効果を持ってこの場に残る。 音爆弾の艦装は載せていない筈だが。 つまるところ、阿武隈は北上に当て逃げしていった。 せめてこの場で止まって謝罪していれば擁護する余地もあったのだが。 ところで、来た道を脱兎の如く全速力で戻って行ったが、阿武隈は何の用事があったのだろう。 「よくも北上さんを……、うふ、うふふふふ……」 「こら、美人がしちゃいけない顔になってるぞ」 演習を終えてすぐ艤装を下ろしていなければ阿武隈に攻撃していそうであった大井を窘める。 修羅を思わせる顔の歪め方をしていた大井は私の言葉にきょとんとし、 一呼吸置いて満更でもなさそうに少しだけ顔の歪みを戻した。 「……美人? そうですよねー、堅物気取りでヘタレな提督を骨抜きにしたんですからねー」 「あのな」 合ってるけれども。 「……いちゃついてないで助けてくれないかな」 「いちゃついてませんよ。……北上さん、立てる?」 大井は姉妹艦を心配するのみの顔付きに変化させ、手を差し伸べた。 大井の手を取り起き上がった北上の装甲は少々傷ついている。 「あーもう小破しちゃったよ。せっかく入渠したのに……」 この後すぐには出撃命令は出さないから、もう一度ドックへ行くか明石の世話になってきなさい。 ただ高速修復材の使用は控えてくれ。 あまり時間もかからないだろうし、何よりこんな下らない事故で一々使っていられない。 兎にも角にもあの阿武隈には後で私から言っておくから許してやれ。 「え? あの娘のところに行くんですか? …………」 どうした。自分で手を下さないと不満か。 「あんな娘の元なんかに……、いえ、何でもないの」 大井は取り繕うようにやけににっこりと笑って艦首を振る。 一先ず自分はこのまま執務室に行くから、大井は北上を連れて行ってやりなさい。 「いいよ、小破なんだからあたしだけで」 「駄目よ、また何か起こるかもしれないわ。守ってあげるから一緒にドック入りましょう!」 ドックまで連れて行ったら大井は戻るんだぞ。いいな。 「ッチ」 おい。 あの後阿武隈の部屋を訪ねてみたが、阿武隈は不在だった。 大井に襲撃される事でも恐れて逃げたか。 仕方なく執務室に戻り、演習前から置き去りにしていた書類に手を付けていると、扉が叩かれる音が響く。 「大井、戻りました」 うむ。 では早速で悪いがそこに分けておいた書類を処理してしまってくれ。 自分は此方の束に集中したい。 「分かりました。さっさと終わらせましょう」 そう意気込んで大井は私の隣に座り、筆を握る。 私の任務は小一時間かかりそうだが、大井の方は半時間もかからないだろう。 共に黙り込んで紙の束を消化していく。 自分の見込んだ通り、大井は時間をかけずに素早く消化してしまった。 やる事がない大井は姿勢を崩しながらも健気に私の作業の終焉を待ってくれる。 特に喉が渇いてはおらず、お茶淹れにも断ったので尚更退屈そうだ。 それからまた数分そうしていると、視界の端で大井は突然ぶつぶつと何事か呟き始める。 「北上さん、大丈夫かなぁ……。私がいないと心配だなぁ……。 うん……、心配……きっと、そう、きっと何か起きてる! 私、行かなきゃ! …………」 …………。 何なんだ。 その、ちらっと此方を伺うような横目は。 返事でも求めているのか。 何を返せば満足なのか。 あと少しかかるから、それまでは好きにしろとしか言えない。 集中しているのだから。 すると、まるで代わりに答えるように鳩時計の針やら歯車やらの機械音の後に鳩が鳴く。 「……あらやだ、ヒトナナマルマルです。もうすぐ夕食の時間ですね。私、ちょっと夕食の仕込みしてきますね」 む? 間宮の手伝いでもするのか。 出来ると言うのであれば行ってこい。 しっかり頼むぞ。迷惑はかけるなよ。 「言われるまでもありませんよ」 大井が出て行ってから、暫くして本日付の執務は粗方片付いた。 後は余裕があれば片付けた方がいいものもあるが、集中力を切らした自分は食堂へ足を運んでいた。 騒がしい食堂の厨房には割烹着に身を包んだ間宮と大井の姿が。 大井が持っているその蓋付きの鍋の中身は何だ? 「勿論、愛情たっぷりの、大井特製カレーです!」 ほう、カレーか。 今日は土曜日ではないが、良かろう。 実際土曜日にカレーを作るなんてのは、多くの兵が艦上で何日も過ごす事のある海軍の名残りでしかないから構わない。 ではその愛情を香辛料にしたであろうカレーを貰おうじゃないか。 そういえば北上の姿が見えないが、修復はまだ終わらんのか? 「あ、いえ。それが、北上さんにもあげようとしたら、もう夕食は済ませたって……」 それはそれは、残念だったな。 まあ安心してくれ。 大井の有り余ってしまった愛情は私が全部頂く。 私と北上にしか食べさせる気がなかったのか、そのくらいの鍋ならおかわりすれば完食できるさ。 早速よそってくれ。 「はい。では、そこの席で待っていてください」 そう言って大井の目線の先の席とやらを見る。 そこは二人用の小さな席がぽつぽつある食堂の入り口付近で、 多くの艦娘が陣取る海を一望できる窓際辺りと比べると閑散としている。 あそこじゃないと駄目か? 間宮の作業場が見えるカウンターか海が見える窓際近くがいいんだが……。 「だ、駄目です。あまり騒がしいところは好きませんので」 むう。まあ良かろう。 そこまで執着はしない。 素直にその席につき、大井はテーブルに鍋を置きまた引っ込む。 今度は割烹着を脱ぎ、白飯を盛った皿を持って現れた。 同じように大井も対面した席につき、鍋の蓋を開ける。 すると、厨房で歴戦を繰り広げた証である湯気と香りが立ち込める。 今日もカレーは美味そうだ。 「"は"とはどういう意味ですか。頭にぶちまけますよ」 一々細かいところに突っ込むな。 大井の愛情を頭から被るのは悪くはないが、これは愛が情熱すぎて火傷を負ってしまうからまた別の機会に頼むぞ。 では頂くとしよう。 「はい。召し上がれ」 薔薇を思わせるにっこりとした笑顔で許可を頂いたので、白飯とカレーを掬ったスプーンを口に運ぶ。 米特有の甘みを持つふっくらしつつも立った白飯と、辛過ぎない程度に食欲を促進させてくれる香辛料の入ったカレーは、 自分好みに調理されている味で毎度ながら感服される。 一口目を咀嚼して飲み込んだ後、大井は最早聞き飽きたであろう短い賞賛の科白を今日もつく。 よく出来ている。美味い。 「美味しい? そうでしょう?」 嗚呼、具も柔らかく煮込まれている。 完璧だよ全く、カレーはな。 「一言多いです。文句言わず食べて下さい」 言われなくとも二口目を運び、大井を観察する。 テーブルに両肘をついて頬に手を当てる大井は、 美味しいと言ってやれば嬉しそうに目を細め、今のような戯言を言ってやるとむっとして口角を下げる。 内に秘めるように普段微笑を浮かべていながらも、実際はこうしてころころ表情を変えるから面白いものだ。 二口目も飲み込み、すうっと流れる後味の中、自分の味覚は何時もと違う何かを感じ取った。 大井、隠し味か何か入れたか? 「あ、分かりますか? 隠し味を入れてみたんですよ」 ほう。自分はそういった試みに挑んだ事が無いから分らないんだが、何を使った? チョコレートか? 牛乳か? 「愛情を入れました」 自分は、がくっと少し首を横にずっこけさせた。 それはさっき聞いた。 そうじゃなくて、何か別の食材でも入れたんじゃないのか。 「はい。いつもお疲れの提督の為に、元気になるものを入れました」 「ふうん……」 漢方薬か何かだろうか。 心遣いは身に染みるが、カレーの隠し味には はっきり言ってしまうと合っていない。 しかしカレーの味を壊す程不味くもないので、自分は気にせずまたスプーンを口に運ぶ。 話は変わるが大井よ。 お前は食べないのか。 「え……。私はいいんですよ、提督のために作ったんですから」 なら一口やろう。 ほら、あーんだ。 「い、いやっ、私は……」 どうした。 何故差し出したスプーンから逃げるように身を引くんだ。 料理の基本である味見も毒見も行ったのだろう? 不味くないから大丈夫だ。 大井が食べないで私だけ呑気に食べてはいられない。 ほら、口を開けてくれ。 「で、でも……」 ははあ。 もしや間接キスでも気にしているのか? それ以上の事をやってきてこんなので恥ずかしがるとは、大井は乙女だなあ。 「恥ずかしがってなんかいませんよ!」 だったら一緒に食べような。 ほら。 「……ぁ、あーん……」 大井は自分で作った癖に、 まるで苦手な物でも食べる子供のように目を瞑ってスプーンのカレーを口で受け取り、不安そうに口を動かす。 何を怖がっているんだ。美味しいだろ? 「お、美味しい、です……」 そうだろう。 私の為に愛情込めて頑張って作ってくれたんだから、不味い訳が無いんだ。 この分だと鍋の方も冷めるまでに食べ尽くせるな。 このカレーは二人で食べてしまおうな。 ではもう一度。あーん。 「そんな……」 何か言ったか? 此方から口に入れておいて悪いが、よく聞こえなかった。 「んくっ。い、いえ、何でもないの」 そうか。ならさっさと食べてしまおうな。 遠征部隊もそろそろ帰ってくる頃だ。 そう言って自分は腕時計を気にしながらカレーの咀嚼に勤しんでいた。 その隙に、大井が恨めしげに何事か呟いていたのを自分は全く気付けなかったらしい。 「ううっ、どうなっても知りませんから……!」 さて、それからというもの自分と大井で手分けして時間もかからずに一つの皿を二回空けた。 のだが、自分の身に異変が生じていた。 別段激辛のカレーを食べた訳でもないのに……。 「はぁ、体が熱くなってきた? そうでしょう、ね……。はぁ……、はぁ……」 そうなのだ。 体の中を熱が疼く。 運動していないのに息が荒い。 屋内なのに汗も滲み出ている。 そして何より、同じような症状が出ている大井が、何故かとても扇情的に映える。 一応断っておくが、自分は時と場所を考えずにこんな情を抱く獣のつもりはない。 大井も途中から自棄になってカレーを食べていたが、お前は本当に何を入れたんだ……? 「言ったでしょう……。ん、提督が"元気"になるものって……」 まさかとは思うが、もしかして。 自分がやがてある一つの答えに行き着き、口にする前に大井がゆっくりと立ち上がる。 テーブルに両手を突いてやっと立ち上がった大井はふらふらになりながら私の肩に縋り付き、 私の耳元で妖艶に何事か囁きかける。 「早く、はぁ……、早く、はぁ、行きますよ、執務室……」 大井が食堂の入り口から近い席に座るよう指示したのは、この為だったのだろうか。 自分も、そろそろ我慢が限界を迎える。 …………………… ………… …… 共に危ない足取りで執務室に引き篭もり、施錠した。 カレー鍋も、食器一式も放置してきてしまった。間宮よ許してくれ。文句なら大井に頼む。 残った理性の欠片はそんな事を遺言とし、弾けた。 執務室の扉に大井を押し付け、次々と口付けを落とす。 「っ、はぁ……。好きですね、提督も……」 「"も"ってのはどういう意味なのかな」 「一々拾わないでくれませんか……」 知った事か。 お前にだけは言われたくないね。 同じ物で塞がれれば物言えなくなると思うが。 「黙ってて下さい。ちゅう、ちゅ……」 首を伸ばすようにして私の口に大井は吸い付く。 大井の柔らかい両手が私の顔を包む。 まんまと嵌り、共に戯言をきけなくなり、部屋には夜戦の始まりを告げる音だけが響く。 「っぱ、はぁ、はぁ……」 やがて口を離した頃、大井は体を完全に扉に預けてしまっている事に気付いた。 自分も両手を扉に預けてやっと足を床に支えている状態だ。 「はあ、ほら、向こう行くぞ……」 「……っ」 大井は顎を引いた。 私の肩にしがみ付く手を取り、更に奥の私室へ連れ込む。 寝具に飛び込み、事を再開した。 装甲の乱れた大井の扇情的な姿に堪らず、色んな場所に口付けを落とす。 まず、足。 「はぁっ……。提督、んっ、そんなところにして、楽しいですか……、んっ……」 聞かず唇を押し付け、吸い付く。 十数秒もそうしていると、いい具合に白い足に跡が付いた。 周辺に幾つも付けていく。 気が済んだら、次に、腹。 「ぅ、ん……、んっ、臍に、興味があるんですか……?」 次に、手の甲。 「っ、ふふ……。はぁ、気取らないで下さいよ……」 次に、首筋。 「っあ……、はぅ、うぅ……」 最後に。 「っ、やっとですか、んむ、……ちゅ、ちゅ、ぇる……はぁ、ちゅる」 自然と共に口を開き、小さな舌を絡める。 情はどんどん深まり、口だけでなく互いの首が互いの腕で繋がれ、足も縺れ合う。 身を引き寄せ合い、互いの熱を共有する。 大井のボイラーは自分に負けずひどく熱い。 あのカレーは殆ど半分ずつ食べたようなものだからな。 特に熱暴走がひどいのは下腹部だ。 自分の考えている事を読むように、大井の手が私の局部を布越しで擦る。 「ちゅく、っあ、はぁ、はぁ、提督の魚雷、もう硬くなってるじゃないですか……」 誰の所為だ誰の。 責任取れよ。 「ふぅ……、んん、こんなつもりじゃ、なかったんだけどね……」 「責任取って、処理してあげます……。私だけが、ね……」 …………………… ………… …… 「どうしたの大井っち、前の服なんか着て」 「え、北上さん!? えと、気分よ、気分……」 午前。 やっと昨夜ぶりに邂逅を果たした北上が、大井に話しかける。 臍部分が隠れる以前の装甲に身を包んだ大井は、後ろ指でも指されたように僅かに飛び上がった。 「なんでずっと魚雷つけてるの?」 「え、こ、これは……。そう! 昨日北上さんに衝突した艦に制裁を与える為よ!!」 大井は仇討ちに燃える修羅を演じているつもりか、腕を突き出す。 しかし説得力がない。何故なら。 「じゃあなんで補給してないの?」 「えっと……、暴発したら危ないじゃないですか!!」 魚雷が一門も装填されていない発射管を見せられて、誰もが疑問を持つ筈である。 見事に打ち破られた大井は最早言っている事が支離滅裂であった。 その横で自分は知らぬ顔を貼り付けつつ、自分は北上と同じように大井に疑問を突っ込む事もしなかった。 真実は自分と大井しか知らない。 朝になって我に返った自分らは、体のあちこちにできた夜戦の痕跡である赤い印をどうにかして隠す事に奔走した。 自分は元々袖も丈も長い服装なので今まで通りの格好で良いのだが、 それなりに露出がある大井はそうも行かない。 大井の首筋は長髪に隠れるから良いとして、足、腹、手の甲に私がつけた印をどうするか。 議論の結果、腹まで隠れる装甲に変更し、足と腕に艦装を施していれば隠れる事が分かり、今に至る。 これに阿武隈への仇討ちの意志は全く含まれていなかったが、北上の言葉で大井は思い出してしまっただろう。 本当に仇討ちを遂行しかねない。 阿武隈よ南無三。 これに懲りて金輪際廊下を走らない事だな。 唯、刑執行人が大井の場合だと金輪際走る事が出来ない体にさせられそうである。 そのブレーキ役となるべく、今日は一日一緒にいるとしよう。 「はい、提督にオムライスです。……え? いやだ、愛情以外何も入ってませんよ。うふふ……」 これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/278.html
462 :6-632:2014/02/11(火) 21 47 50.16 ID BgeVLwt0 「司令官、こんなところまで良く来てくれたね」 帽子も、制服も変わった響は今までと変わらない柔らかな笑顔を俺に向けてくれた 「寒かっただろう?私が作ったボルシチだ。飲んでほしい」 以前俺の艦隊に居た時にもふるまってくれたボルシチ。 響の作るそれは世界中で一番美味しいと思う。 俺は、ロシアで行われるスポーツの祭典に日本海軍代表として招待され ロシアの地に足を踏み入れた さかのぼる事数か月前、俺の秘書艦であった響を大本営がロシアに譲渡してから数か月 毎月手紙のやり取りはしていたが、実際に声を聴くことはなかった 愛おしい、誰よりも愛おしい響の声を この訪露も話によれば響が色々水面下で根回しをして俺になるよう海軍に 話をつけていてくれていたようだ 「おいしいかい?」 響が尋ねてくる 「もちろん。世界一美味しいよ。響」 「スパスィーバ」 たわいない会話。あの日まで毎日毎日繰り返してた行為 今となっては懐かしく、変化のない毎日が大変貴重だったものだと実感させられる。 「司令官、今日は夜の会場警備があるから、これで・・・・」 そう言い響が部屋を出て行った。 響・・・。どんな血の滲む努力をしたんだ? 一介の来賓が泊まれるような部屋じゃない異様に豪華な客室。 そこに供された夕食はホテルのシェフご自慢の料理では無く全部、響の手作り 「・・・・。ごめんな。愛してたのに・・・。こんなダメな指揮官で」 ロシアの“ヴェールヌイ”となった今でも俺の事を“司令官”と呼んでくれるとは 今日のディナーの御礼に寒い中会場警備をする響にホットコーヒーでも持っていこう そう思い俺はホテルマンへ連絡し携行しやすいカップに入れたコーヒーを持って 競技会場へ向かうことにした 薄明りのの中、俺は寒さに耐え響を探した こんな寒い中で会場警備とは・・・。警察や陸軍がやればいいものの、 相当人が足りないらしい。 会場近くの茂みの中から声が聞こえる この声は、響と・・・。ロシアの士官か? この時ばかりは、ロシア語を勉強したことをひどく後悔した そしてこの場に来てしまったこと。 響を守り通せなかった自分を責めた。 俺が見た光景は、寒空の下。ロシア士官が響の乳首を執拗になめまわし、 手は股間を弄りっている。あたりには響の性器から溢れた蜜が出す水音と 響の喘ぎが聞こえてくる 「寒くはないのか?」 ロシア士官は響に尋ねる 「ああ、同志がこうして私を温めてくれてる。私は幸せだ」 本当に喜んでいる表情で、自らも腰を動かしロシア士官の指を性器で堪能しているようだ 「あのヤポンスキーにしてもらうよりもか?」 響は一瞬何かを考えるような間を置いたのち答えた 「あぁ、同士にされていた方が幸せだ」 そう答えると、響はロシア士官のペニスを口に含み、愛撫していく じゅるっ。じゅるっ 響は美味しそうにロシア士官のペニスをしゃぶる。 喉奥の限界までペニスを自ら突っ込み、まさに「喉でペニスを扱いている」状態である 言うなれば、ディープスロートだろうか。 ディープスロートからシックスナインに移行し ロシア士官も響の性器を舐めまわす。 響の甘い声が聞こえてくる。 「早く欲しい・・・。同志のおちんちん。早く入れて」 遂におねだりを始める響 「そうか、そうか。よし、ヴェールヌイ。挿入してやる」 響はうっとりとした目でペニスを待ちわびる。ロシア士官が意地悪そうに言う 「何ならヴェールヌイが呼んだジャップをここに呼び出して、見せつけてやろうか」 「さすがに、それは恥ずかしい」 響は俺をこの場に呼び出すことは拒否さえしたものの、早くペニスが欲しくてたまらないといった表情だ あっ・・。あ 遂にロシア士官のペニスが響に入っていく。 すごく恍惚とした表情でロシア士官が腰を振ると恥ずかしげもなく大きな声であえいでいる 「あぁ・・・幸せだ」 時折喘ぐ響の声に交じるセリフ 「ヴェールヌイ!ヴェールヌイ!」 響のセリフに合わせるように、“今の響の名前”をロシア士官も叫ぶ 「ヴェールヌイ!このままイクぞ!」 ロシア士官の腰がさらに早く動く 「え、そ・・・。それは」 響はちょっと困惑した声を出すものの、リズミカルな腰の動きに合わせ喘ぐ どんどんその声は大きくなり、ロシア士官が響の一番深いところまでペニスを入れると 腰を止めた。 「あっ・・・出てる同志のが・・・・。中に・・・・」 響は息を切らしながらつぶやいた 「幸せかヴェールヌイ」 ロシア士官が尋ねると響は余韻に浸ってか力なくうなずいだ それを見るとロシア士官は満足したようにペニスを響から引き抜いた。 繋がっていた部分。響の性器からはロシア士官の精液が大量にあふれている。 行為を終え早速体が冷えたのか、響は小刻みに震えている。 そんな響と目が合ってしまった 俺は無言でホテルへ帰った。 結局コーヒーを渡すどころか、あんなのを見てしまって・・・。 「くそっ!くそっ!!!!」 俺は何度もホテルのベッドにパンチと蹴りを入れた 数日後、スポーツの祭典は日本選手団の活躍もあり大盛況のうちに幕を下ろした 日本の選手の中には世界で最も栄誉のあるメダルを獲得した者もいて 同じ日本人として誇らしく思った。 帰国の日、響が空港まで見送りに来てくれた 「司令官、お疲れ様。暁や雷・電とか皆に私は大丈夫だと伝えて欲しい」 そういうと、今にも泣きだしそうな顔になる 俺は頭をそっと撫でた 「あぁ、約束するよ必ずお前が元気だと伝えるさ“ヴェールヌイ”」 響の表情が一瞬こわばる 「え?あ・・・。あぁ。司令官、すまない。こんな事まで甘えてしまって」 響は俺の乗った航空機が離陸するまで、見送ってくれた。 だが俺はモヤモヤした気持ちでいっぱいだった。 別れを惜しむような表情を見せた響。 でも、ロシア士官との性行為に幸せを感じる響。 俺の気持ちは・・・。 それから数十年後たったある日、響の代わりに秘書艦に就任した電が血相を変えて執務室に飛び込んできた 「ロシアからお手紙なのです。」 “あの日”以来月に1回の響からの手紙も無くなり、数十年ぶりの手紙に俺も驚いた はやる気持ちを抑え開封すると、中からはロシア語で書かれた手紙が出てきた スポーツの祭典の為に「話すことはできるようになったが」いまいち文字は読めないので 吹雪を呼び代読してもらった 要約するとこうだ 響が沈んだ。最期は“ディカブリスト”と名乗りロシアで新人の艦娘の教官をしていたが 艦載機の訓練中。標的が無く自らの身を挺して後身の指導を行った そしてその艦載機のミサイルが命中。響は沈んだとの事 また“返却したいもの、ディカブリストから俺宛に渡したいもの”があるから ロシアに来てくれとの事だった。 俺はロシアへ渡った 「良く来てくれた」 ロシアに着いた俺はロシア軍の高級士官と謁見し、返却したいものを受け取った 響の服だった。それも俺の指揮下に居た頃の、第六駆逐隊の ロシアの高級士官の案内で響が沈んだ所へ立ち寄った そこで“響から俺に渡したいもの”を渡された。 その際、ロシア高級士官は 「申し訳ないが規律で検閲はさせて頂いた」 と述べた後脱帽したうえで敬礼し 「大変申し訳ない。私たちの監督が甘かったせいで貴君とヒビキを 傷つけてしまう結果になってしまい申し訳ない。」 そう俺に言ってきた 俺はその響からの手紙を読み始めた 大好きな司令官へ この手紙を読んでいるってことは多分私は沈んだんだね。 あの日以来、司令官に手紙を出そうと思ったけど、どうしても書けなかった。 私は、司令官の事を忘れたくてあんなことしてしまったんだ。 司令官がそばに居なくて辛くて、心細くて、寂しくて、心が張り裂けそうだった。 でも、あの行為をすればするほど、司令官への気持ちが抑えられなくなっていったんだ それでそれを振り払おうと、何度も何度も没頭してしまったんだ 言い訳かもしれないね。実際司令官は私の事“キタナイ”って思ったかもね 私だって司令官以外に汚されて、どんな顔で司令官に合えばいいかわからないんだ。 でも、でもね。絶対に、絶対に信じて欲しいことがあるんだ それはね 身体を許しても、幸せな気持ちになりたくて、何度幸せと叫んでも 心の中には司令官がいたんだよ。 心だけは絶対に許さなかった。 今更だけど、もう一度言わせて。あの時みたいに。 司令官。愛してる 響 「響・・・・。響っ」 俺は声にならない嗚咽を出してしまった 高級士官がそっと肩に手をのせてこういった 「ヒビキの最期の言葉は“すまない。司令官”だったそうだ。」 俺はひどく後悔した 響をロシアへ送ったこと あの後以来響にちょっと冷たくなってしまったこと そして、もっと素直に響と向き合っていればと +後書き 480 :6-632:2014/02/11(火) 23 30 25.66 ID BgeVLwt0 ちなみに、先の響の話で最期に「ヴェールヌイ」としなかったのは 現在のダイビングスポットでのヴェールヌイが眠る地点でダイバーが 「ヒビキ」と言っているのを元としました。 (ロシア語のサイトをBing変換すると「響」と明記されているので) つづき
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/634.html
如月ちゃんのSSを投下します 色々な二次創作の影響なども含めた独自設定が多数ありますがご了承ください 「あぁ~ん、如月が一番なの?まぁ当然といえば当然ね。いいのいいの、あまり褒めないで」 テストの順位が学年トップということに喜ぶ少女如月。 彼女はこの地区でも評判の天才美少女である。 「みてみて~、この輝く名前。あはっ、もっと近くで見てよ」 如月が学年トップの証である金文字で書かれた自分の名前を指差しながら言う。 だが俺はそれを複雑な感情で見つめるしかなかった。 彼女はなんて頭が良いんだろう。そんな気持ちが心を暗くする。 あまりにも輝いている彼女を見ると馬鹿な自分自身に情けない思いがしてくる。 別に俺は自分の頭が悪いということに劣等感を抱いているわけではない。 勉強以外にも多くの事をやりながら勉強でも優れた成績を残せる彼女の能力が羨ましかった。 休み時間はほとんどの場合心理学についての本を読んでいて、昼休みなどの長い休み時間だと球技をしたりするなど 落ち着いた物腰ながら時に意外と活発な才女であった。 色んな人達のお役に立ちたいらしく、休日はおろか平日もボランティア活動していることがあった。 勉強が出来るというだけで頭が良いという事にはならないだろうが、 色んな所で色んな活動して賞とかも貰いながら学業でも学年トップの成績を叩き出す…… 沢山の事を高いレベルで成し遂げられるのは間違いなく頭が良いと言わざるをえないだろう。 そんな輝く彼女を見ていると何だか胸の中がもやもやとしてきた。 別に彼女の事を嫌いだとか気に入らないとか、そういうわけではない。 どうでもいい存在なら軽く流せるものである。 むしろ好きでなければどんなに楽かと思うくらい昔から大好きだった。 大好きだったがゆえに彼女に引き付けられ、そしてその輝きを見せ付けられ、力なき自分の情けなさを付き刺される。 レベルが違いすぎて彼女に釣り合わず、いつか俺から離れてしまうのではないかと思ってしまい、 ある日図書館で一種に勉強していた時、彼女は問題を解けたのに俺は問題を解くことができず、 普通なら泣くなんてことは無いはずなのに 思い詰めていて精神的に追い詰められていたためか、思わず泣き出してしまった。 「ど…どうしたの………かしら……?」 俺が突如泣き出してしまった事には如月もさすがに驚きを隠せなかったようであった。 「お兄さん……答えが空欄…」 横から無表情な女の子が見るからに答えが埋まっていない俺のノートを覗き込んで言った。 覗き込んだ少女の名前は弥生。如月の一つ下の妹であり、姉に優るとも劣らぬ天才美少女だ。 美少女だけど無表情…それも怒っているように見える上に 自分から周りに溶け込もうとすることが少なかったため周りからはいつも気を遣われていた。 如月はそんな引っ込み思案にも見える妹を引っ張っていってくれる優しいお姉さんだった。 ちなみに俺もたまに弥生を引っ張っていくことがあった。 如月と自然に会うためという意図もあったし、俺自身かわいい女の子をほったらかしにしたくない的な思いもあった。 「問題が解けなくて悔しいのね……」 「…………」 俺は何も言えなかった。否定も出来なかった。 「だったら私が勉強を教えてあげるわね。わからないことがあったら遠慮なく聞いてもいいわ」 「本当に……?」 「本当よ」 「……ありがとう……」 こんな情けない俺に優しくしてくれる如月に俺の涙は益々止まらなかった。 でも、それ以来俺の心から暗さが消えていった。 きっと如月が俺の事を悪く思っていないって感じ取れたからかもしれない。 そして夏休みに入った。部活が休みだったある日、朝から図書館で如月と一緒に数学の宿題をしていた。 一緒に宿題と言っても如月は簡単に問題を解き、余った時間で心理学の本を読んで……なくて眠っていた。 如月にしては珍しい。しかし如月の寝顔って穏やかだなあ。いつも笑みを絶やしていなかったからこれは新鮮だ。 俺はいつまでも見ていたかったが宿題をやらねばならないからと涙を飲んで勉強に集中した。 俺は中々問題が解けなかったが、如月に情けない姿は見せられないと 諦めずにわからない問題は後回しにし、教科書を見ながら問題を解いていった。 「……あー、もうこれ以上わからん!」 「ん………あら、終わったのかしら?」 如月が目を覚まし、何事もなかったかのように俺のノートを見る。 「……………………結構出来てるわね」 「そうか?答え合わせしなきゃ合ってるかどうかは…」 そう言って俺は一緒に答え合わせをした。驚いた事に如月の言った通り、解いてある問題に関してはほぼ正解していた。 間違っていた問題も如月が解説してくれた。もっとも、如月の言っている事は天才にありがちそうな概念的なものであり、 理論的ではなかったからか俺には全ては理解できなかった。 「はぁ…やっぱりわからない所はどれだけ聞いてもわからん」 「ごめんなさい、お役に立てなくて……」 「いや…気にしないでくれ…俺の頭があまり良くないだけだから…」 「そんなこと無いと思うわ。このドリルの問題、あなたは結構正解していたじゃないの! あなたはやろうとしないから出来ないだけでやればデキル子なんですっ!!」 如月はこう見えても結構負けず嫌いな所がある。双子座は負けず嫌い精神とは程遠いはずなのに。 あ、ちなみに如月の名前の由来は戦前の軍艦如月からであり、軍艦如月の進水日、 つまり海に初めて出た日の6月5日に生まれたから如月と名付けたらしい。 一方俺もどっちかと言うと負けず嫌いではある。ただ誰に対してもというわけではなく、 特定の誰かに対してという面が相当強い。 俺の場合、表も裏も蠍座の男だからか蠍座特有の一点集中力が非常にマズい方向に働き、 よりによって大好きな女の子に対する負けず嫌いな心が生まれていた。 俺が好きな子を相手にした時ほど負けず嫌いになる理由は多分その子より劣っていたら その子から好かれないんじゃないかという思い込んでしまう一種の強迫観念なんじゃないかと最近思えてきた。 はっきり言って面倒臭い人間だ。他の人に対しては負けてもそこまで気にしない…… いや、気にしないというよりもどうでもよくなってしまうといった方が正しいのかもしれない。 好きな子に対しては前述のような理由や、注目してしまうことから優劣を深く考えてしまうのだろう。 もうちょっと気にしないようにすればいいのに…… 「そもそもそのやろうとする気とか、そういったものがあまり出にくい時点でやっぱり頭が良いなんて言えないんじゃ…」 頭ではわかっていても心では理解しきれていない所とか治した方がいいのに つい打ち負かしたくなり俺は続けようとするが… ぎゅるるるるっ…… 「…………」 「…………」 口論の最中急にお腹がなった。ふと気になって時計を見たらなんと既にお昼の時間は過ぎていた。 「……こんな時間まで集中できたなんてやっぱりあなたは頭は悪くないと思うわ。 それじゃ今日はこのくらいにして、お昼に行きましょ!」 空腹だったからか、俺は如月の言葉に言い返す気も起こらず、如月に誘われるまま昼食を食べに行った。 「しかし如月はどうしてそこまで数学が得意なんだ?羨ましいよ」 オーダーして料理が来るまでの間、俺は如月に率直に疑問を聞いた。 「それはね……砲弾を撃った時の速さと相手の速さを計算したり、 魚雷を撃った時の水の抵抗がどれ程なのかを計算して確実に相手に攻撃を当てるためよ」 「…………将来自衛隊か軍隊か何かに…」 「な~んちゃって」 「ったく、冗談はやめろよ。心理学について勉強してるってのも俺を上手くおちょくるためとか言うんじゃないだろうなあ」 「それは違うわ。だって心理学とか関係なくあなたはおちょくりやすいですし…」 「何だと!」 「…私が心理学を勉強しているのはね、相手が何を求めているか、何をすれば役に立つかってのがわかりたいからよ」 ふざけた話の後に真面目な話をするというのも心理学の応用なのだろうか? 俺は何を言おうか考えている内に頼んでいたメニューがテーブルに並べられた。 料理が出た以上手を付けないのはまずいだろう。俺達は料理を食べはじめた。 「ああ、やっぱこの季節の冷し中華はおいしいなあ」 「…………」 物凄い勢いで美味しそうに冷し中華を食べる俺の姿を見た如月は自分が食べる事も忘れて半ば呆然と俺を見ていた。 「いやあ、食った食った……」 「……とても嬉しそうだったわ……そんなに美味しかったのかしら?」 「ああ、夏はやっぱり冷し中華だよな」 自信満々に言い切った俺の姿に如月は気圧されながらも何だかとても嬉しそうだった。 「そう…よかった、お食事に誘って。さっきまでとっても暗い感じだったのにご飯を食べたら急に元気になっちゃって…… あなたの笑顔を見てるとこっちまで元気になっちゃうわ」 「そうか……如月、さっきは言い過ぎてごめんな」 俺はさっきの口論の事について謝った。 「別に気にしていないわ。あなただって色々と不安とかあったりしてあんなこと言ったんでしょうし…… それにお腹が空いていたのですから苛々とするのも不思議じゃないわ」 「だけど平常な時じゃなくて非常時に取る態度や行動こそがその人の本質に近いんじゃないかと思うと…」 「もう!あなたはいつも自分を責めすぎよ!そんな姿ばかりだとこっちまで落ち込んじゃうじゃない!」 「すまない……」 「…それにね、あなたは自分を過小評価し過ぎなのよ。失敗した時の事ばかり考えているし…… それも大事だけど、まずは何事もやり出す事から始めないと。 大丈夫よ、あなたはちゃ~んと集中力はあるんだから、 もっと集中できるようになるときっと結果は出るわ」 力説する如月に俺はもう余計な事は考えないようにしようと思った。 「ところで今度の土曜日はお暇かしら?」 「んー…特に予定はないな」 「じゃあ船に乗ってちょっと離島にでも行かない?」 「離島か…でも俺達だけで行くのも親達に心配を…」 「大丈夫よ、日帰りだから。朝は少し早いけどね」 「そうか……じゃ、行くよ」 「ふふっ、ありがと…」 「ん……弥生ちゃん?」 ふと振り返ると弥生ちゃんが立っていた。 「あ…気にしないで…」 「弥生、あなたも今度の土曜、離島にでも遊びに行かない?」 「いえ…お二人の邪魔を…」 「みんなで一緒に行った方が楽しいと思うよ」 「……わかりました。一緒に行きます…」 弥生ちゃんは少し申し訳なさそうに答えた。 そういえばこの子は昔から相手に気を遣うタイプなんだよな。 自分は気を遣われることを気にしているのに。 しかし弥生ちゃんが気を遣ったということは俺が如月を好きだと気付いているか、 あるいは如月が俺に対して何か思うところがあると思っているのか。 「決まりね。それじゃ、早速水着を買いに行きましょ!あなたも一緒に来て」 「ああ」 如月に誘われて二つ返事で了承した俺。荷物持ちか何かだろうと思いあまり考えなかった。 「見て見て~、この輝く肌。あはっ、もっと近くで見てよ。どうかしら?」 ピンクのビキニを試着した如月はそう言って胸を強調するようなポーズで感想を求めた。 「……うん…綺麗だと思う……」 何だか恥ずかしくてあまりまともに見られない俺だった。 「褒めてくれてありがとう。好きよ…」 「ッ!?」 「な~んちゃって」 「くっ、からかわないでくれ」 「でもよかった、喜んでもらえて。Bカップの水着でかわいい水着ってあまりなかったから」 俺を恥ずかしがらせたいのか、そういったことは結構包み隠さず言っちゃう如月だった。 「あれ?弥生ちゃんは?」 如月と一緒に着替えた弥生ちゃんはどうしたんだろう。 「あ、ほらほら、弥生も隠れてないで見せてよ」 如月はカーテンに隠れていた弥生ちゃんを誘い出した。 弥生ちゃんの水着は水色を基調としたセパレートの水着だった。 チャームポイントの細いお腹も強調されていてなんとも可愛らしい。 「可愛らしいね」 俺は素直な感想を言った。弥生ちゃんもとっても可愛い。 もし如月がいなかったら俺は弥生ちゃんを一番に好きになっていたかもしれない。 もっとも、如月がいなければ弥生とここまで親しい関係になれたかどうかはわからないが。 「ありが…とう……嬉しい…です……」 恥ずかしがりながらも感謝の気持ちを述べる弥生ちゃん。顔もいつもより少し赤みがかっているような気がした。 「それじゃこれで決まりね」 そう言って如月達は着替え直し始めた。 土曜日、朝早く俺達は船に乗って離島に向かった。 「風が気持ちいいわね…」 「そうだなー。弥生ちゃんもそう思…弥生ちゃん!?」 「…ん……あ……ごめんなさい……」 弥生ちゃんは立ったまま眠っていた。なんとも危なっかしい。 「仕方ないわ、こんなに朝早かったんですもの…ふぁ~…」 あくびをする如月。そういえば目がとろんとしていたなあ。 「あ……ごめんなさい……」 「いや、気にはしてないよ。そういえばこの前図書館で勉強していた時も眠っていたよな。 如月にしては珍しかったよ。如月はそういう所がしっかりしているからすごいことができるって思っていたからさ」 「突発的なことがあれば予定も狂っちゃうわ」 「そこら辺も含めて余裕あると思っていたけどな。まあいいや。それじゃコーヒーでも飲まないか」 「コーヒーは…ちょっと苦手……」 「それにコーヒーなんて飲んだらお花を摘みに行きたくなっちゃうわ」 俺はわかったようなわからんような、そんな顔をしながら話題を変えた。 「しかし平和だなあ。とても恐怖の大王が世界を滅ぼすとは思えないよ」 「恐怖の大王って…そんなの信じてるんだ」 「ノートルダムとかいう預言者が言っていただろ。1999年の7月に恐怖の大王が世界を滅ぼすとかさ」 「ノートルダム?」 「ああ、ラテン語でノストラダムスと言うんだ。二万年前のアトランティスの人間じゃないと思う」 「よくわからないわ……」 そりゃあ漫画の知識だからだ。それも如月が買うような漫画ではない。 如月が俺の家に来て勝手に読むとかで知ったりする可能性もあるけど。 ……ん?海の上に誰か立っている?いやそんなはずはない。きっと蜃気楼だ。そうに違いな… 「え…あれは……」 “それ”をみた如月は驚いた顔だった。そしてその一瞬の後 「危ないっ!」 珍しく声を張り上げた弥生ちゃんが俺達の前に立ち、直後爆発のようなものに吹き飛ばされる。 俺は吹き飛ばされた弥生ちゃんに駆け寄った。弥生ちゃんは痛そうに呻いていた。 よく見たら弥生ちゃんは弥生の通っている学校の制服を着ていた。 だがそれはボロボロな上に金属片みたいなものも散らばっている。 「みんな、逃げて!!」 如月が声をあげて叫ぶ。 「待てよ、一体何が…?」 俺は疑問を聞こうとして、ふと如月が見つめていた方向に目をやった。 そこには異様なまでに白い肌をした女の子… 頭に得体の知れない化け物みたいな帽子を被った女の子が立っていた。彼女も服がボロボロだ。 「まさかもうこんなに…狙いは私達?」 「一体何なんだよ、あれはっ!」 「みんな逃げて!!ここは私が何とかするわ!!」 いつも穏やかな物腰だった如月にはありえないような口調。それに圧倒され、 俺は弥生ちゃんを抱え、回りのみんなと一緒にその場から逃げ出した。 船内に入る直前、如月が心配で如月の方に目をやった。 如月の服はボロボロではあったが、俺達の学校の女子の制服に着替えられていた。 それに船の一部分のような形のものを背負っていた。 「うぅ……如月……」 「無理するな!」 「でも、如月一人じゃ…」 「本当に何なんだよあれは!」 「あれは…深海棲艦……」 「しんかいせいかん?」 「如月も大破してるから…助けに…行かないと…」 「じゃあ俺が助けに…」 「ダメ!……普通の人間じゃ、深海棲艦には何も……」 「新幹線だか何だか知らないけど、このまま黙っていられるか!」 俺はお約束みたいな言い間違いをしながら弥生ちゃんの制止も無視して如月のもとへ向かった。 先程のギャグ的な言い間違いなど言えるような状況と言えないほどそこは恐ろしい現場であった。 甲板は荒れ果て、如月は服がさっきより破ている状態で倒れていた。 これは映画の撮影かなんかじゃないかと思ったが先程避難勧告が出ていたことを考えたらそれはない。 ならば夢を見ているのか?それも違う。俺は昨日早く眠りについた上に今日はコーヒーを二杯も飲んでいた。 だからこれは今現実に起きている出来事なのだ。 倒れている如月に手に持った杖でトドメを刺さんと言わんばかりに化け物みたいな女は近付いていった。 このままでは如月が!そう思った俺は先程拾っていたデッキブラシを構えながら気付かれぬよう近付いた。 相手は如月に気を取られているのかこちらに気付いてないようだった。デッキブラシに力を込めながら背後から近付く俺。 化け物女が如月にトドメを刺そうと杖を掲げたその瞬間、俺は全力でスイングした。 化け物女は驚いた声をあげながらよろめいた。腕の力だけではなく、腰や全身を使ってスイングしたのだ。 どんな奴でも背後から気付かれぬ内に攻撃されて平静ではいられないものなんだな。 俺はとにかく叩き続けた。好きな女の子を酷い目にあわされて黙っているわけにはいかなかった。 だが攻撃もむなしく俺は化け物に逆に杖で殴り飛ばされた。 「うおぁっ!」 殴り飛ばされる直前辛うじて避けたものの完全には避け切れず攻撃が俺を掠めた。 だがそれでも相当なものだった。少し触れただけなのに衝撃波か何かによって弾き飛ばされた。 「ぐわあぁぁっ!!」 俺は何とか頭は打たなかったものの左手を床に打ち付けてしまった。激しい痛みが走った。 俺は恐怖した。人間ではこの化け物に勝てないと。 「くっそーっ!」 だが俺は自らを奮い立たすかのように声をあげて必死に抵抗した。落ちていた金属片を片っ端から投げつけた。 しかし野球やってるとはいえ狙いをつけて投げたわけじゃないから上手く当たらない。 もっとも、仮に当たったとしても大したダメージは与えられないだろうが…… 「くっそっ!!」 「………」 化け物は自らの無力さに叫ぶ俺にトドメを刺そうと杖を振り上げた。その瞬間だった。 ドゴォォォォン!! 化け物の背後で爆発が起きた…いや、化け物の背中が爆発した。 倒れる化け物。その背後には如月と同じ格好… だがボロボロの如月と違って綺麗な身なりのショートカットの少女が 小さな大砲のようなものを構えながら如月を庇うかのように立っていた。 「間に合った………」 「き……君は……?」 「あなたでは如月を守れない……幸せにできない…………」 「な、何を……」 「やはり私じゃなければ…この子を…」 ショートカットの少女はこちらの質問に答えようとせず、 僅かに蔑むかのような目で俺を見ながら意味のわからぬ独り言を呟いていた。 「そうだ、如月は!?」 「…………」 「大丈夫…少し傷があるけど… 艤装が大破して激しく見えるけど命に別状はないわ… 今は気を失っているだけ……」 「……それならいいけど………あいつらは一体何なんだよ!!それに君も!!!」 俺はあまりにも気になる疑問を率直にぶつけるしかないのだった。 「心配かけてごめんね。もう大丈夫よ。弥生も元気になったし」 あれから一週間。俺達の…いや、世界の状況は一変した。 深海棲艦という未知なる化け物が世界各地の海で暴れ回り、海路だけでなく空路すら断絶させられていた。 深海棲艦は既存の兵器等がまったく歯が立たない存在で、 その正体は第二次世界大戦の亡者達(人だけではなく艦等のモノも含む)が世界中の悪意と融合した存在と思われている。 そしてその深海棲艦に対抗できるのは、同じく第二次世界大戦の亡者の力を借りた艦娘という存在だけだった。 「はっきり言って今でも信じがたいけど……でもあれを見てしまった以上信じなきゃいけないだろうな。 それに世界中でも暴れているってのがメディアの報道でもわかるし。 けど実はあの時よりずっと前から深海棲艦ってのがいたんだな」 「ごめんなさい、隠していて……でもあの時は今ほど深海棲艦は出没してなかったの。 一般的には精々ネッシーを見たとかそういった程度の認識だったのよ」 「まったく……預言者ももうちょっと気を利かせて対策でも見つけてくれたらよかったのに……」 ノストラダムスの預言が見事的中した形で深海棲艦が現れたわけだ。 だがその預言があったために深海棲艦という存在が終末思想が蔓延っていた世界にすんなりと認められ、 それに対抗する艦娘という存在もあまり抵抗なく一緒に認められた…のだと思う。 ちなみにアンゴルモアとかいうのがいるかどうかは知りません。 「深海棲艦が確認されて、その後艦娘という唯一の対抗策が生まれたわ。 艦娘はその名の通り女性しかなれないもの。でも女性なら多かれ少なかれ誰でもなれる可能性はあるの。 私と弥生は10歳になった時に艦娘の素質があると教えられて艦娘になったのよ。 それからは人知れず訓練を重ね、秘密裏に深海棲艦と戦い続けていたのよ」 「そうか……………………」 俺は二の句が接げなかった。 彼女達の、ボランティアとかそんな話を超えた言わば使命の過酷さ、 そんな中でさえ学生としての本分を最高の形で成し遂げる力。 俺は恵まれた中でただ目的もなく毎日を過ごしている自分自身に怒りにも近い感情が湧き、 その感情を発散させるかのように飲みかけのはちみつレモンを一気に飲み干した。 「しっかし如月って本当に何でも出来るよなあ。そんなとんでもない敵と戦いながら、 勉強とか、その他色々なことだってちゃんと出来てるんだからさ」 如月は学年で一番頭が良いと言えるくらい頭脳明晰であり、多くの章を貰っていて、嫉妬したくなるくらい輝いている。 そんな彼女の名前を知らない者はいないと言いたくなるくらい有名だが、 彼女が名前を残そうとしているのは、彼女が悲劇の駆逐艦如月の魂を継ぐ者だからではないかと思えてきた。 駆逐艦如月は、かつて起こったあの忌ま忌ましい戦争で何の活躍も出来ぬまま沈んでいった。 知られていないというだけなら他にもたくさんの艦があるのだが、 他の艦は多少なりとも戦いでの活躍があるものの、駆逐艦如月にはそういった話は本当に何もない。 だからこそ、何の活躍も出来ず忘れ去られていった駆逐艦如月の無念が一人の少女に宿り、 今の時代にこの世界で名を残そうとしている…… 如月が有名になろうとしているかのごとく頑張っていたのはそんな理由があるのかもしれない ……俺はそう思っている。もちろん俺の勝手な想像だから実際のところはどうなのかわからないのだが…… 「まあ結構大変だったけどね」 ……あれ?いつもと態度が違うぞ。いつもなら当然だと言わんばかりに この年齢の女の子としてはある方な胸を張っているのに。 「私だって出来ないこととか、他の人に負けることだってあるわ」 負けず嫌いなのに弱音を吐くなんて… 「あなたは自分に自信が持てないみたいだけど、もっと自信を持って。だってあなたは強いんだもの」 「強い…って俺には戦う力なんてないよ。あの時だって全然役に立たなかったし…」 「違うわ。そうじゃないの……深海棲艦は強い。私だって戦っていてあまり無事ではない時もあるわ。 そんなのには普通の人間なんかじゃ手も足も出ないわ。でもあなたは勇敢に立ち向かった。 それは私を守りたかったからじゃないの?」 「…………」 「あはっ、あなたったらすぐに顔に出るんだから」 如月には敵いそうにないな。 「でも守りきれなかった……あの子にダメ出しされてしまうくらい……」 「あの子……睦月のことかしら?」 「ショートカットの女の子だったかな」 「そうよ睦月よ。その子がどうかしたの?」 「あの子、俺を見て守れないとかなんとか……」 「あの子はね、小さい頃に両親と妹を深海棲艦に殺されたの」 「なんだって!?」 「その頃は深海棲艦の存在は公じゃなかったけど、あの子を助けて引き取ったのが深海棲艦を研究し対抗していた人達なの。 彼らから話を聞いた睦月は深海棲艦への復讐の為に艦娘になったって聞いたわ。私が艦娘になった年齢よりも幼い年齢でね…… だからかしら。私の事を妹のように扱っていたわ。私が『如月』であの子が『睦月』である事と関係あるのかもね…」 睦月…って子はとにかく如月が大切な存在なんだな。 もしかしたら俺が想う以上に如月を大事に想っているのかもしれない…… 「あなたと同じくらい私の事を思っているのかもしれないわね」 俺の考えを見透かされたかのような……!?如月は俺の気持ちを知っているのか!? 「睦月は戦いの中でいつも私を守ってくれた。そしてあの時のあなたから睦月と同じくらい私への想いを感じたわ。 実はね、今までもあなたの気持ちには薄々気付いていたの。別に嫌じゃなかったし、結構楽しかったわ。 でもあの日あの時、命をかけて私を守ろうとした。 あの時からなんだか私の心がちょっとおかしくなっちゃったみたい。 もしかしたら恋しちゃったのかもしれないわね…… ……後悔はしたくないわ。だから聞いて。私と……………………セックス…………して…………」 ……………………は? 思わずそう言いたくなるくらい俺は耳を疑った。 「ソレって…つまり赤ちゃんを作るってことだろう?俺達がそんな…」 「それもそうだけど、でもそれ以外に愛を確かめ合うって意味もあるわね」 俺も男の子だ。そういったことに興味がないわけではない。というか凄く興味深々である。 そういうことは気持ちいい事って聞いたから一度はやってみたいと思ったことはある。だけど………… 「心配しなくても今日は大丈夫な日だから」 「大丈夫とかそうでないとか……そういう問題なのか?」 いざそんな場面になるとその気になれなかった。 嫌という意味ではなく、何故という意味もあったし、 もしもの時の事や未知の行為への不安などもあった。 「…………私達ね、あなたとお別れしなくちゃならないのよ……」 「…………え?」 如月が目を潤ませながら言った。 「深海棲艦が現れ、その存在が公になって艦娘達は横須賀の鎮守府へ行かなくちゃいけなくなったの。 だからあなたとはもう二度と会えなくなるかもしれない……」 「そんなこと…」 「私達艦娘は深海棲艦と戦う。戦うということは場合によっては死んじゃうかもしれないのよ。 だから今しかないの。あなたとの思い出を作ること、 そして、あなたの心の中に私を刻み付けることができるのは……」 如月は多分…いや間違いなく覚悟を決めていた…のかもしれない。 俺は涙を流していた如月を信じ、その想いを受け止め、そして………… 「ん………………」 如月の唇に自分の唇を重ねた。 それはとても暖かく、柔らかく、幸せなものだった。 初めてのキスはレモン味という話を聞いたことあるけど、 さっきまで飲んでいたはちみつレモンのせいか、本当にそんな味がした。 「そう…そこよ……」 俺は如月に導かれるままに彼女の股に…初めて見た女性のあそこにちんちんの先端を当てた。 皮をかぶせていたまま当てていたが、こうやってするものと言われて如月によって剥かれた。 「本当にいいのか……」 「い、いつでも…大丈夫…ですわ……」 俺にも余裕はなかったのだが如月も余裕がなさそうなのは言葉から感じ取れた。 「じゃあ…行くぞ…!」 俺はあえて興味本位の感情を強く出して迷いを捨て、如月から求めているんだと自分に心の中で言い聞かせ、 ちんちんに力を入れて進めようとした。 だが如月のそこは阻むかのように俺を受け入れようとしなかった。 如月は少し痛がっていたが、俺は余裕なんてなかったため力任せに何回も突いた。 如月の我慢混じりの小さな悲鳴が聞こえたが、気にせずに何回も繰り返した。 そのうちぬるぬるした感触とおしっこをしたくなるような感覚に似たものを感じるようになったがまだ入らなかった。 俺は一旦腰を止めた。如月が少しきょとんとした感じの顔になった気がしたが、 その間に俺は力を溜め、そして一気に突っ込んだ。 ブツッ!!!! 何かが破れるような感じと音がして、俺のちんちんは如月の中に入っていった。 「あっ!!ぅ……ぐっ……!!」 如月は大声をあげるもすぐさま我慢した。 我慢した時に力が入ったからなのかはわからないが 如月の中に入っていった俺のちんちんが強い力で締め付けられた。 その瞬間何かが解放されるような感覚がした。 びゅるっ…… 音にするならそんな風な、そういう感覚が次に来た。 おしっことは違う、なんだか気持ちいい感覚が続いた。これが射精というものだろうか。 知識としてはあった俺だったが、実際にそうなったことは記憶の限りでは今までなかったのだ。 俺が気持ち良さを味わいながらも考えている内にそれは終わった。 「はあ…はあ…」 「っ…………」 「………如月、大丈夫か!?」 全てが終わって冷静になった俺は目の前で複雑な表情をしていた如月の心配をした。 「大丈夫……ですわ………」 どう考えても大丈夫という気がしなかった。 「なにもかも…初めてですもの……初めては…痛いもの…だから………」 痛いもの…………俺はちんちんを入れた場所を見た。そこからは赤い血が流れていたからだ。 「如月っ!ごめん!」 俺は謝った。如月を傷つけてしまったと思ったからだ。 「気持ち……良かった……?」 如月は気にしていないかのように俺に質問を投げかけてきた。 正直言って今の如月を見ていると自分だけが気持ち良かったとは言い難かったが、 気持ち良くなかったと嘘をついてしまえば痛みに耐えてくれた如月を傷つけてしまう。 俺は正直に気持ち良かったと答えた。 「良かった…………」 如月は涙を流しながらも笑みを浮かべた。それは嬉し泣きをしているようにも見えた。 「それじゃすぐ抜く…」 「抜かないで!」 「っ……いや、でも如月が…」 「私は大丈夫よ…それにあなただってまだやり足りないみたいだし……おちんちん、まだ硬いわよ」 「……わかったよ……」 俺は如月に言われた通りちんちんを抜かなかった。 「……動かないの?」 「動く?」 俺は如月をぎゅっと抱きしめたまま動かなかった。 「そう…抜ききらない程度に抜いて、もう一度入れて、また抜ききらない程度に抜いて……それの繰り返しよ」 「そうだったのか……」 入れるだけのものだと思い、動くものとは知らなかった。 俺は如月を傷つけないようにちんちんをゆっくりと引いた。 擦れた感覚がとても気持ち良く、思わず突き入れてしまった。 「っ……!」 「あっ、ごっ、ごめん!!」 「…いいのよ……続けて………」 「ああ……」 如月に言われるがまま腰を動かした。如月を気遣うかのように最初はゆっくりと快感を我慢しながらだったが、 如月の声が我慢しきれなかった悲鳴のようなものではなくなってきて徐々に動きを激しくした。 そして俺は再びあの感覚に襲われた。 びゅるるっ!! 精液を再び如月の中に出していた。 今度は奥深くに出すように腰を強く押し付け、如月を強く抱きしめていた。 如月も俺の体を力いっぱいぎゅっとしていた。 「あなたの気持ち良かったっていう証がこんなにたくさん…ありがとう…… 私も好きよ…………大好き………………」 お互いに何回も何回も求め合った。 最後の方は俺は気づかいなどなしに自分の快楽の為だけに腰を振っていた。 だが如月は俺を受け入れてくれていた。その顔には笑みが浮かんでいた。 そして俺への好意の言葉はいつものような冗談めいたものではなく、 声にならないような、切ない涙声が俺の心を震わせた。 「ギリギリまで一緒にいたい……」 それは俺も同じだった。本当は如月を戦いに行かせたくない。 危険な目に会ってほしくない。変わらぬ日常をずっと一緒に過ごしていたい。 だけど、彼女が戦わなければ他のみんなの変わらぬ日常が壊されてしまう。 子供のような理屈なんかで彼女を止めることなんてできやしない。 だから、今この瞬間を大事にしたかった。 全てが終わった後も如月と繋がり合っているこの瞬間を…… 「今日のこと……一生忘れないわ…… だから……あなたに、今は一つだけお願いがあるの…………」 『今は』……最後に、ではないのはまた会える日を信じていたからだろう。 そして、その言葉は俺にとって一生忘れられない言葉だった………… ―如月のこと…忘れないでね…― 《終》 + 後書き 897 :名無しの紳士提督:2015/01/29(木) 20 16 34 ID UtuOToxs 以上です 精神的に微妙なときに書きかけていたものを形にしました 相手を提督以外で書くのは初めてですが 子供的な考えとかの表現が上手くできたかわかりません それでは これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/598.html
326 名前:クズ ◆MUB36kYJUE[] 投稿日:2014/12/03(水) 14 01 52 ID NtMtd7kw [1/26] 以前元カノ祥鳳が今カノ大鳳から提督を略奪する話を書いた者です。 加賀とあきつ丸で修羅場する話を書いたので投下します。 長編未完(あともう一話だけ続く予定) 軽いSM表現 提督がクズ の要素を含むので苦手な方はスルーをお願いします 1 難航するミッドウェーの攻略に海軍兵学校時代の友人Kの助言がもたらされたのは、作戦開始より二週間が過ぎた頃であった。慣れ ぬ二正面作戦、入渠の管理や戦略立てなど忙殺の極みにあった当時、提督のやつれた表情はMI攻略にあたった艦娘たちを一種の無力 感に苛ませるものであった。二重に増した気遣わしさを抱える彼に、振るわぬ戦果の報告をしなければならないという口惜しさ。また すこぶる順調な様子のアリューシャン攻略組を目にしたときの自身らの惨めさ。こと一航戦の二人は作戦開始以前にはトラウマの払拭 を目指さんと意気込んでいたために、余計に屈辱を感じているらしかった。 不幸なことには、この鎮守府の提督は普段より内心の底知れぬ雰囲気を纏っていたこと。即ち幻滅されやしないかと彼女らが不安に思 ったとして、言葉で否定したところでその杞憂を完全に払拭させることができなかったということがある。優しげな微笑も、いたわる 視線も、信頼という対人関係上の保険の心理を持っている故にむしろ辛く思われるのだった。それは薬指に契りの証を持つ加賀につい ても、例外ではなかった。 この負のスパイラルに気が付きながら、しかしどう打開もできず、ただ心労を抱え込むしかなかったその時分。先述の呉の友人より 以下の電報が舞い込んだ。 『アキツマルキカンニスベシコウロゲンテイサレル』 つと差し伸べられた救いの手。あまりに都合の良すぎる情報にまず猜疑を抱いた提督は、だが従来の戦略に手詰まりを感じているのも 事実だった。すがりつく事のできそうなものならば藁であろうが糸であろうが手繰る気になっていた彼は、ものの試しといった心緒に 彼女を執務室へと出頭させた。 果たして連合艦隊旗艦に任命されたあきつ丸の反応は、端から見ているだけでも気の毒に思われるものであった。それを伝えたとき には、ふとしたら失禁するのではないかというほど体躯を震わせる。烈風の装備を命じただけで卒倒せんばかりに唇をわなつかせ、い よいよ出撃前最後の号令を下す段ともなれば不健康な顔色を更に蒼白に染めていた。口数も少なく、自身の足先を見つめているばかり である。 執務室に整然と並んだ艦娘。数多の戦地を渡り歩いたという貫禄の漂う中に、やはり彼女の姿は異質だった。提督は瞳のせわしなく 動く彼女へ仔細にはにかんで見せ、それから労わる声音に話しかけた。 「まぁ眉唾ものの情報だからそんなに気張らなくてもいい。ただ艦戦飛ばして艦爆を落とさせないようにするだけだ。簡単だろ?」 「はい! 必ずやこのあきつ丸、期待に応えて見せるのであります!」 異常なほど燦爛とした眼に答える彼女であったが、その会話自体、微妙に噛み合っていないということにも気が付かない様子。苦笑 しつついつもの様に「無理はしてくれるなよ」と釘を刺せば、皆一斉に敬礼して、それぞれ部屋を後にする。 最後まで居残ったのは加賀であった。彼女は可憐に朱色を帯びているはずの下唇を真白くなるまでぎゅっと噛み締め、拳を震わし立 ち尽くしていた。何かを言いたげな視線を寄こすも一向に口を開こうとはせず、その睨むような目つきには混濁した感情の渦が見える ようである。 提督が知覚した心理の機微は、そのほとんどが正鵠を射たものである。陸軍の揚陸艦に旗艦の座を盗られるという屈辱と、それを是 とした提督への幻滅。かといって文句を言うには自身の立場も磐石でなく、一層それが口惜しく思われるのだろう。 彼に抱いた幻滅の情は、また彼女自身にもその刃先の向けられているものであった。苦戦はすれども、今までこのような形に役職を 解かれたことはない。 言うも言わぬも辛く、ただ目線で訴えかけるしかないのである。そういった悲哀を目の当たりにし、提督は心緒の梢に厭に生々しく 劣情を感じた。それは唾を嚥下した音が彼女に聞こえはしなかったかと、気を廻らすほどのものであった。 「あきつ丸は実戦慣れしていない。きちんと守ってやってくれな」 逡巡の後にそう口走ったのは、何も艦娘の間に軋轢の生じぬよう気を回したとか、そういった殊勝な心がけによるものではなかった。 むしろ彼女の無言の訴えを無視することによって、より悲壮を煽ろうというのだった。果たして加賀は目を見開くと、瞳を潤まし視線 を逸らす。ゆるゆると持ち上げられた左手が着物の襟をぎゅっと握り、その間呼吸も止まっていたらしい。大仰に一息いれてから、 「わかりました」 短く言った。平静を無理に装った為に、幾らか低すぎる声音となった。 ここまで健気な反応をされては、提督も吊り上がる頬を押さえ込む事ができなかった。思わず口元を手で覆ってしまい、調息にも労 をとった。その仕草を認めた加賀は途端に恨めしげな視線を寄こし、呻くように呪詛を吐く。 「そういう底意地の悪いところは嫌いだわ」 荒い語気、突き放すような言い方に滾る怒りの一端が見える。想像以上に怒らせてしまったらしいことを自覚し、提督は慌てて 「すまない」 微笑し答えた。 加賀は依然としてムスッと顔を背けるばかりである。近づき体躯を抱き寄せ、指で軽く髪を梳いた。 サイドテールの結ばれた根元が、頤の先に触れた。服飾越しの体温はいつもより熱く、どこかそこに切ない愛おしさが感ぜられた。 身をよじる様な僅かな抵抗にあいながらも無視して抱擁を続けていれば、しばらくの後むしろ自ずから背に手を回す加賀である。安 堵の吐息が鎖骨の下あたりを焼くように撫ぜ、提督はそのこそばゆさに背筋を鳥肌立たせた。 「結果が出せなくたって解体はしないから、安心しろ」 またからかう声音に言えば、肩甲骨の窪みあたりを叩かれる。遅れて鼻を啜ったらしい水音も耳朶にできて、途端に湧き出す嗜虐の 愉悦を享楽せずにはいられない。 「泣いてるのか?」 「泣いてません」 「見せてみろ」 肩を押し一尺ほど距離を開けて見ると、加賀は慌てて顔を反らす。顎に指を這わせ無理やりにこちらを向けさせてみれば、鋭く睨み つける眼の端から雫の滑り落ちるのが見えた。 含羞の屈辱に歪んだその表情が、彼の心を激しく打つ。滾る悦の奔流が、暗い欲望を掻き立たせた。彼女の精神的な弱点を嬲り遂に は落涙させるにまで至ったという征服感が、痛めつけようと思えばまだ幾らでも責め苛ませることのできるという優越感が、兎角気持 ちよくてならなかったのだ。 自身の欲情をぶつけるようにして、提督は彼女に口付けた。 突然の事に目を白黒させる加賀は、ぬたつく舌の無遠慮に侵入してくるのをただただ驚懼の心地に感じていた。疵だらけにされた心 を容赦なく締め上げてくるような、暴力的なキスである。 辛く切ない感覚に、彼女は彼の腕の中で身悶えた。割られた唇の間から漏れ出す声は、悲鳴なのか嬌声なのかもわからない悲痛さ。 だがそれでも未だ両手が背に這わされたままであるのは、つまり彼女も悦を感じているわけなのである。夜伽のたびに自身の性的趣向 をありありと剥き出しにされ、辱められる。その指教が彼女をすっかり被虐性愛の快味に順応させたのだった。 現に、貪婪にもその先を欲しているのであろう。脚は艶かしく摺り寄せられ、背の窪みを指が這い回った。意識的にしろ無意識的に しろ、少なくとも身体の方は濫りがましい欲求を滾らせているという、その証左に他ならない仕草である。 出撃号令を下してから経過してしまった時間については、もうすっかり意識の埒外に追いやられていることだった。故に執務室の戸 の開けられた音に、両者まず何故という疑問を浮かべたほどである。 「提督殿! 加賀殿が中々下に降りてこないのです、が……」 勢いよく戸を開けたあきつ丸の、頬のみるみる朱色に染まってゆくのを視界の端に捉えて、しかし提督は接吻を止めはしなかった。 無論加賀の方は水揚げされた魚の如くに激しく胸の内で暴れるが、体勢が体勢である故、顔を背ける事さえかなわない様子。執務室に はその後たっぷり十秒ほども、水音とくぐもった嬌声とが鳴り続けた。 口を離すと粘性の橋がつぅと伸び、自重で崩れてゆくのは淫らである。 「ん? あぁ、あきつ丸か。すまん、ちょっとこちらも取り込んでいてね」 唇を拭いわざとらしい声音に言いのけると、次の瞬間頬には視界の一瞬暗くなるほどの衝撃と痛みが馳騁していた。平手の一発くらい は覚悟の上、それで羞恥に苛まれる彼女を見ることができるのだから彼にとっては安い買い物なのである。 加賀はビンタを喰らわせた後、一目散に執務室を去っていった。部屋には悦の充溢した提督と羞恥と驚愕に目を見開くあきつ丸だけ が取り残され、まるで時の止まったかのような沈黙が何十秒と足元を流れ去った。 「と、時と場所とを考えていただきたい!」 帽子を深く被りなおしようやく言い叫んだ彼女は、焦ったような早足に加賀を追う。提督はとうとう堪えきれなくなると、ふとした ら床に転げまわりそうなほどに身もだえして、笑い続けるのだった。 2 午前の雑務は滞りなく消化され、ふと眺めた窓越しの海に彼女らの身を案じた時分。机上に散乱した書類を纏めつつ臨時秘書の那智 と会話をしていると、内線のけたたましいベルが鳴った。途切れた話の奇妙な間の中電飾の光る盤面を見れば、どうやら無線室からの 連絡らしかった。 「どうかしたか」 受話器を取り倦怠の滲んだ声音に言うと、その言葉の後尾に被る勢いをもって焦燥の声が飛び込んでくる。 今日当番の無線技師妖精は、普段は寡黙に草の茎を口にくわえているような輩なのであった。故にその早口から事態の切迫している らしいことだけは把握できて、彼は途端に背筋を張った。 「緊急暗号通信です!」 「誰から」 「呼出符号、ライチョウ」 「……すぐ向かう。しばし待て」 仔細顔に勢いよく立ち上がった提督を見て、那智は怪訝な表情をとった。 「どうした、司令」 「すまんがこの部屋の留守を頼む。なるべく早く戻るよ」 「……了解した」 発せられる雰囲気に気圧されて何も状況を聞き出せず、小走りに戸の向こうに消える彼を見送るしかない。長い付き合い、これだけ 語気の逼迫した彼というのを今までに目にした事は無かった。那智は一人心内に漫然とした不安を横たえらせ、心細く床を蹴った。 広い室内にぽつねんと佇立して、自身の心拍の上がった理由を胸の内に探ってみれば、そういえば今第一艦隊のいないということを 思い出す。だからこそ自身が秘書をしていたわけであるのだが、そういった状況の認識が遅れてやってくるほどに、焦燥が思惟を苛ん でいた。果たしてこのえも言われぬ不安感は、杞憂と一蹴するには真に迫るものがある。そして提督とて胸に抱く感情は同じ。 無線室に入りまず彼の目に付いたのは、肩を振るわせながら瞳を眼窩の内に右往左往させる妖精の立ち姿であった。彼は提督の姿を 視界に入れるなり幾ばくかの安堵を顔色に滲ませ、一枚の感熱紙を差し出した。 紙面の文字を追う提督は自身の予感が的中していたことを悟ると、嘆息をつく暇もなくその妖精に指示を出す。 「繋げるか」 「はい」 「やってくれ」 「……繋ぎました。どうぞ」 訓練では飽きるほどに繰り返した手順である。だがいざそれを実践する機会を目の前にすると、自身の知識に猜疑を持つような心地 となるのだった。一息の間の後、提督は意を決して口を開いた。 「ライチョウ。こちらオシノヤドリギ。無線チェック。オクレ」 「オシノヤドリギ。こちらライチョウ。感明よし。オクレ」 「オシノヤドリギからライチョウ。暗号通信を受領した。状況の説明を求む。オクレ」 「ライチョウからオシノヤドリギ。警邏任務中、貴施設へ進行中の敵艦隊を認む。艦隊規模、およそ三十。空母棲姫、戦艦棲姫を確 認。現在地北緯三十一度四十五分十二秒東経百二十八度四十六分五十八秒。女島より南東におよそ五十キロ。敵艦は定速十六ノットで 北東に航行中。およそ六時間後に貴施設へ到達。当機は監視を継続。どうぞ」 「オシノヤドリギからライチョウ。把握した。何か進展あり次第連絡されたし。オワリ」 無線のぶちりと途切れる不快音を耳朶にしながら、提督は愕然とした顔つきにヘッドセットを置いた。慢心と言えばそうである。よ りにもよって主力のいない今、まさかこの鎮守府自体を襲撃されるとは思ってもみなかったのだった。 反省など後々存分にやればいい。彼は心内に自身をそう戒めると、今やるべき事を脳内に次々列挙していった。 「何かまた通信があったら呼んでくれ」 一瞥も向けずに言い放ち、返事を聞くより先に部屋を出る。 一級、二級の艦船がいないとなれば、真正面から殴りあった所で勝てるわけもない。兎角増援を頼むことにし、そうなれば人脈のあ る自身の立場は有利だった。 執務室の戸を開けると、腕組みし苛立たしげに指を反復させていた那智が、食って掛かるようにして口を開いた。 「敵か!」 「うん。三十隻くらいだって。規模が大きすぎるから、ちょっと協力を請わなくちゃならんね」 机を回り込むのも億劫に思えて、提督は向かい側から電話の受話器を取った。打った番号は呉鎮守府、それも私用のプライベートナ ンバー、友人Kのみを呼び出す秘密のものである。 「もしもし」 随分長いコールの後、ざらつき低い熊のような声質の応答がある。 「Kか? 俺だ」 「知っている。何だ」 「手短に言うがな、うちの鎮守府に敵が迫ってるんだがこちとらALとMIに主力を投入したばかりなんだ。いちいち上を通すのも 面倒だ。この俺に免じて協力してくれ」 「……状況はわかったが、残念ながら無理な相談だな」 事情を聞き返すこともなく一蹴されるという展開は、彼にとって思ってもみなかったものであった。 「貴様、理由を言えよ」 意識せず上ったこの言葉には、大いに怒気が含まれてあって、彼は言った側から自省の心地となってしまう。一語謝るより先に、そ の心中を察したらしい。すまなさそうな調子に早口の弁解があった。 「どうやらお前は知らないらしいが、今関東の沖合で深海棲艦が大挙して進行中だ。奴さん珍しく揚陸艇まで引っさげて九十九里と 相模から首都を狙う腹づもりでね。当然もうこっちにも収集の命令がかかっているわけさ」 「このご時勢にダウンフォールか。奴らなりのMIの報復ってことなんだろうな。……だがなんで俺にはそれが知らされていないん だ」 「俺も佐世保に収集が掛かっていないってことは聞いてて疑問に思ってたんだが……お前の話を聞いて納得したよ。そっちに向かっ てる深海棲艦には揚陸艇は含まれてないんだろ?」 「ああ」 「陽動だよ。こっちの敵は上陸を目的としているが、そっちの敵はせいぜいお宅のハウスを壊しに行っている程度なのさ」 「つまり、加勢は見込めんか」 「そう気を落とすな。勝手なこと言うようだが、お前ならやれるさ。気張れよ」 「……あぁ。……悪いな」 受話器を置き、それからしばらく顔をあげることもできなかった。まずなにより、何もかも後回しに状況さえ知らせてくれない大本 営、その怠慢っぷりに腹が立った。いや、いちいち知らせる時間さえも惜しい状況なのやもしれないが、だとしても薄情に過ぎるでは ないか。胸の内に呟く呪詛は、そのまま腹底に不愉快として沈殿してゆくようだった。 机を蹴っ飛ばしたい衝動に駆られるも艦娘のいる手前流石に自重すべきで、また外面に気を遣う自身のそういった心理の動きが忌々 しさを増大させた。 提督の中に高まって行く内圧を察したか、那智は気遣わしげに声をかけた。 「断られたか」 「あぁ。陽動だからって」 「案ずるな。たかだかその程度の艦隊、私たちの敵ではない。出撃させろ」 自身はまだしも、他の艦娘には荷が勝ちすぎるということを那智は自覚していたのだった。しかし、かと言って何もしないわけには いかない。今は無き帝国での経験が記憶に継がれてある以上、たとい練度の低い艦とてそういった割り切りはできるはずだ。 彼女のこの言外の意を、提督は鮮明に知覚していた。蠢いていた怒りは砂地へ水が立ち消えになるように無くなり、後には慟哭した いほどの寂寞が心の根にわだかまった。現世において玉砕の決心をさせてしまったという不甲斐なさ。それが胸をきつく締め付け、彼 女への反抗心にとって変わってゆく。 「貴様、いつまでもそう俯いてもいられないだろう。それとも白旗でも掲げてみるか?」 「名案だけど、敵が国際法を知らないってのは問題だな。……まだ出撃はしない。全艦娘は戦闘準備を整え、待機」 「おい!」 叱咤の声に怯みもせず、彼は那智を見据えた。 「まだ手はある」 非戦闘艦、妖精のいなくなった鎮守府というのは存外に寂しいものであった。工廠に煩わしい工作機械の音も途絶え、食堂に給仕妖 精の喧騒も無くなり、日の傾きかけている時分とはいえ廓寥の心内甚だ愁いに染まりすぎている。 本棟屋上に座しているは、明石、那智、提督の三人。内、明石は自身の工具をもってして、手元に電気コードの束を弄っていた。 「できました」 げっそりと精気の抜けた声に宣言した明石は、両腕を上げ、その勢いのままコンクリの床に仰臥した。屋上の淵に沿うように全部で 五つ、探照灯が並んでおり、それらは一様に首をもたげて地平線を睨みつけていた。 「ありがとう。もう避難してもいいぞ」 「嫌味ったらしい言い方ですね!」 頬を膨らませる彼女には微笑をもってして応えた。腕時計を確認すると時刻は一六○○を回ったところ。予定を少々押してはいるが、 かといって焦燥に気分を害するほど追いつめられているわけでもなし。焦眉の急と言ってもいいほどの状況にありながら、この鷹揚と した空気の流れていることは不思議に思えた。 「車で送るよ。……先に号令かけなきゃだから、ちょっと正門で待ってて」 差し出された手にしがみつき上体を引き上げ、明石は一つ首肯した。 普段なら最終的な出撃の命令は執務室にて行われるが、今回は総力戦。主力を除いたとて、とても艦娘全員をあの部屋に押し込むこ となどできるわけもなく、一同はひとまず食堂に集められていたのだった。 那智と提督がその部屋に入ると、姦しい雑談の声は一瞬にして鎮まった。まるで同時にスイッチを切ったかのような、奇妙な連帯感 が滑稽に思えた提督だったが、艦娘たちには笑顔を作る余裕も無いらしく皆一様、黙して視線を向けてくるばかりである。 その瞳に怯えの色を湛えている者も少なくはない。遠征が主で戦闘任務は数えるほどしかこなしていない駆逐、軽巡。あるいは今回 が初めての実戦であるという者さえいるのだろう。何れは経験する事といえ戦闘処女の初めてが自身らの基地の防衛となれば、なるほ どその重圧、忖度することさえ億劫になる。 「出撃の時間だ」 この宣言は変に間が開いたために、浮ついた印象のある言葉となった。提督がそのことを一人心内に恥入っている間にも、艦娘達は 一斉に立ち上がり凛々しく敬礼して見せた。 姿勢に気後れも憂いも怯懦もない。外面には一縷の弱みも見せないという純真の立ち振る舞いが、提督の心を鬱々しくさせた。 何か言えよと那智に視線で促される。喉の中に明るい声音を作ってから、彼は口を開いた。 「情報によると敵に揚陸艇は含まれていないとのことだった。つまり敵方の目的は上陸になく、この鎮守府の破壊にあるということ だ。……出撃を命ずる立場にありながらこんなこと言うのもどうかとは思うんだがな。建物なんてのは壊されたらまた直せばいいだけ の話なんだ。いい加減タイル張りのトイレなんて不気味だし、執務室は熱がこもって馬鹿みたいに熱いし、そのせいで冷房代もかさむ し。まぁリフォームの良い機会を貰ったと考えれば、敵にやられたところで腹も立たん。 だが君たちは違う。替わりはいない。沈まれちゃ困るし悲しい。だからこっちのことは気にせず、無理だけはしてくれるな。怒らな いから危なくなったらさっさと逃げろ。兎角、自身らの身命を第一に考えるように。 では、各員に最大の成果を期待します」 答礼すると、艦娘は一斉に駆けていった。 中々に良いことを言ったんじゃないかと手前味噌に自身の言を振り返っていると、那智に眇められた眼を向けられる。わざとらしく 小首を傾げて見せれば、大仰な嘆息の後わき腹をずいと小突かれた。 「なんだ貴様、さっきのあれは」 「何って言われてもさ、何ってなんだよ」 「もっと戦意を鼓舞するようなことを言えなかったのかという話だ」 「がらじゃないし。明石送ってくるよ」 ポケットから車のキーを取り出し見せびらかすように掲げ、提督は踵を返すのだった。 武闘派の彼女からすれば小言を言いたくなるというのも分かるし、故にこれは不毛な議論となるのだった。価値観の相違に解決の手 段などあり得ない。 無能な自身が、果たして何を言えるというのか。もう幾度目かも分からない自嘲の呟きは、口の中に停滞した。 「貴様も、そのまま避難していればどうだ」 戸を抜けようかというタイミングに、遅れてそう投げかけられた。身を案じての言葉なのか弱腰な事への皮肉なのか、仔細に過ぎて 判断に迷う声音である。 「それこそ士気に関わるだろうよ」 振り返らずに返事をしたのは、その答えを知りたくなかったからだった。 鎮守府の敷地の外れ、普段は誰も寄りつかない工廠の裏側。ただ白線によって区切られただけに見えるその駐車場には、まるで自生 しているかのごとく二台のプリウスが止められてあった。ネイビー色に染められた車体は、即ちこれが海軍の所有するものであると無言 の内に物語る。 中に入りエンジンをかける。尻から伝わる振動やハンドルカバーの滑らかさ、各ペダルの抵抗。随分久しい感触に一抹の不安を抱い た提督は、しかし遅れて認知された事柄によって途端胸を撫で下ろした。佐世保の街に避難勧告が発令され、もう随分経ったのだ。今、 道路を走る乗用車などありはしないし、故に幾ら未熟な運転をしようがそうそう事故も起きないはずだ。 正門へ向かうと、警備室の壁に背を預けた明石の姿が視界に入った。近くに止めると、彼女は後ろを回り込み助手席の戸を開けた。 「待ったかな。ごめん」 視線を計器盤脇の時計に流しつつ言うと、 「ほんとですよ! 人使いが荒いんだから……」 むくれた表情に返答される。 提督の失敗だったのは、そこで会話を押し広げる事もできず無言のまま車を発進させたことだった。それは別段彼女の発言に気分を 害されたというわけでもなく、ただ言葉から連想された思考の萌芽が口を噤ませるほどの勢いを持って脳内を馳騁したのだった。 不安げな目つきに顔色を伺う彼女に気付き、提督はようやく遅れて口を開いた。 「なんだか提督職に就く奴ってのは、あくどい卑劣漢なんじゃないかと思うんだ」 この突拍子もないように思える発言に、しかし明石は自身の良心が苛まれる、じくじくとした疼痛を覚えていた。先の言葉が提督の 心緒に波紋を広げたらしい事。例えば陶器を割ってしまうだとか大事な用事のある日に寝坊をしてしまうだとか。後にはどうすること もできない類の不安と焦燥に、胸の内を焼かれる心地だった。 その彼女の心的状況を察せられぬまま、尚も彼は続けた。 「今日、思い知った。結局現代の人類ってのは艦娘に頼らないことには自身の身すら守れないんだな。……君達は信頼という頚木に 繋がれた荷馬車の馬だ。俺は君らとの仲間意識を築いて、それを盾にしてこの卑劣なシステムを運営しているんだ」 咄嗟にそんなことないですよと口走ろうとして、しかしそういった慰めの軽薄さ。先ほどまでの自身の放った言葉を前にしては余り に都合がよすぎるようで、彼女は閉口した。 単に自身の発言を取り消したり、或いは謝ったりするのも露骨に過ぎる。もどかしさと悔悟に苛まれたままなんとか言葉を捜し探し、 沈黙の痛く感じられる段になってようやく捻出かなったのは、随分つまらない文言だった。 「でも今日は、私は探照灯を散々弄れたので、まぁ満足していますけど……」 依然、提督は仔細顔を崩さなかった。 明石を避難所へと送り届けた後には急いで復路を駆け抜けて、その後はずっと探照灯の元に座り込むのであった。 宵の地平を双眼鏡越しに眺め続ける。時間の経つほどに腹底の緊張は膨らんでいった。 脇に侍らせた妖精幾匹かも提督と同様、眼前の海面を注意深く見渡すが、どこかその様子には場慣れた余裕が感じられた。つまり戦 場に赴いたことのある者と無い者との、埋めようのない溝である。たとい同じ姿勢を取ろうとも、その発せられる雰囲気には歴然たる 差があった。 妖精の向けてくる気をかけた視線が口惜しかった。自身の発する違和感は、褥を共する処女の不格好さと似たようなものなのであろ う。尊大な自尊心を備えてない提督とて、この状況には堪えるのである。羞恥が胸を苛み、どうしようもなく心を痛ませた。 どこか茫漠と感ぜられた自身の無能さが、今確信という土壌を持ってして胸の奥底に根を下ろす。甚だ傷つけられたのは、発見の報 告さえ妖精に先を越されたという事だった。 「煙です!」 しじまを裂いた声は声量自体それほど大きなものではなかったが、状況と彼の心の内に湧いていた危機感によって大仰に耳朶にされ た。言われよく地平を眺めてみれば、夜空の紺に溶け消えかかってはいるが確かに薄暗い陰のような煙が立ち上っているらしい。 「全員、位置につけ」 静かに命ずると、妖精たちは二匹ずつそれぞれの探照灯の元に向かっていった。提督もまた立ち膝の姿勢をやめ、その場に佇立する。 大したこともない役割だと自身を無理やりに宥めてみれば、今朝方あきつ丸に言った言葉が意識の表層に思い出された。偉そうな、 上から目線の労わり。途端顔から火のでそうなほどの羞恥にかられ、彼は歯噛みし眉を顰めるのだった。 次第次第に露わになってゆく戦況は、大方予想通りのものであった。後進しながら迎撃する第一戦隊、那智を旗艦に構成された部隊 であるが、艤装に手傷を負っていない者は誰一人いないほどの消耗ぶり。反面敵方に目立った損害はなく、一方的と形容してもいいほ どの状況である。 尚も提督に焦りがないのは、即ちこれも作戦の内であったからだ。 戦闘の行われている海域から幾ばくか離れた水面の稜線。そこから放たれた信号弾の輝きが、夜空を毒々しい緑色に染めた。敵の後 方にようやく姿を現した艦娘たちは、練度の低い者を寄せ集めた第二戦隊。経験と訓練がものを言う夜戦において、素のままでは到底 役立たない即席の部隊である。 無論事情も何も知らない敵にとっては、驚異として勘定に入れなくてはならないほどの頭数である。混乱に足並み乱した彼奴等を見 届け、すかさず提督は命じるのであった。 「投光!」 くぐもったモーターの音が、遠い砲撃の喧噪をかき消してゆく。夜空へ伸びた丸太のような光線は、しばし視線を泳がせた後にかっ ちりと敵に照準を合わせた。 今や挟撃の準備は整った。練度不足とは言え艦娘は艦娘。これだけの状況を整えてやれば、第二戦隊の面々でも充分に火砲を当てる ことができるはずだ。 白光が火薬の朱と煙の黒に染められてゆくのを視界に入れ、提督は今まで呼吸の忘れていたように安堵の嘆息をついたのだった。 そもそも入り江に大した援護もなく突撃する時点で、もう愚策もいいところなのである。割り当てられた敵の頭の無さに感謝しつつ、 されど容赦をするに足る理由はない。 彼奴等はさながら、定置網に掛かった魚であった。もう逃げ道は失われ、遅かれ早かれ膾にされる運命である。 無論、この作戦にも弱点はある。それは探照灯という装備の共通する、避けようのない弱み。即ち敵に本棟の正確な位置を知らせて いる挙句、しかも艦船と違い動きようもないのであった。 「よし、全員撤退!」 双眼鏡から目を離し辺りを見渡すと、命令を下すより先に妖精は我先に避難を開始していた。彼らはふよふよと高度を上げ夜空の向 こうへと姿を消したが、それは提督にとって思ってもみなかった展開であった。 つまり、一緒にこの建物の中を降りていって外に出るという行程を踏むものだと、端から思い込んでいたわけなのである。冷静に考 えてみれば、こうして宙を漂うことができる者たちに階段なぞ必要であるはずもない。独り屋上に取り残され、途端胸の内に心細さの 風が吹き、焦燥に命じられるまま彼は出口へと走って向かった。 屋上の片隅にぽんと置かれた、立方体の建屋。本棟内部へ降りてゆくための階段とその他配電管理の機械室等を内包するペントハウ スであるが、それは三十メートルほど向こうの対岸に鎮座していた。ものの数秒に走り抜けられる距離であるのに、ひたすら遠くもど かしい心象だった。 兎角、逃げねばならない。少しでも遠く安全な場所へと、強迫観念に囚われていた最中、一つ燦爛とした何かが視界の端に捉えられた。 一瞬の内に膨張したそれがつと消失した瞬間、鼓膜を裂くかのような空気の擦過音と共に、足先には猛烈な振動が伝わった。 察知は須臾の内だった。死に際に放たれた敵戦艦決死の砲弾が、那辺かは分からないにしろこの本棟を直撃した。 作戦立案は無能としても、その武まで手練ていない訳は無い。初手から目標に当てる技量の持ち主である。誤差の修正された次の砲 火は、洒落にならないものとなるだろう。追い詰められ、自身の死期を悟った精神状態ならば尚更である。 提督は危殆なる状況に、膝を震わすほどであった。 脳天を吹き飛ばされた戦艦棲姫は水面に仰臥した後、腰からゆっくりと沈んでいった。最後、助けを請うかのように伸ばされていた 腕が遂に指先まで没したのを見届け、那智はようやく安堵の吐息をつくことができた。 張りつめていた緊張が一気に緩び、血管の一筋一筋に血の流れが生々しく感じられるような心地だった。急な目眩に膝を付き、眉間 を挟むようにして揉んでいると、駆け寄ってきた駆逐艦の身を案ずる声が耳朶にされる。顔を上げ視線に大丈夫と返信したその時、思 考の敷居の下にてくすぶっていた懸案が、わっと湧きだしてきたのであった。即ち本棟の損害の具合と、提督の安否についてである。 戦艦棲姫はその身に数多の傷を負いながらも、尋常でない意志を持ってして執拗に攻撃を続けた。砲撃は五回、三連装砲から放たれ た弾の一発も当たらなかった回は無く、今や探照灯の光線はその全てが消え果てている。 急ぎ本棟に帰還すれば、彼我の距離の縮まるにつれその被害の大きさが認知され始めた。まるでカルデラの如くに穿たれた穴から、基 礎のコンクリや鉄筋がまみえる。それらは引きちぎられた血管のようにグロテスクな様相を呈しており、しかも壁の至る所にあるもの だから凄惨に過ぎる印象だった。 焦燥に促されるまま、那智は岸壁を登った。 見るも無惨に吹き飛ばされた正面玄関は、最早以前どのような趣であったか厘毛のほども思い出せない有様である。散らかされた積 み木のように瓦礫の散乱する中、その片隅に彼はいた。 ちょうど腰の高さに切り取られたコンクリ片の上、全身を灰褐色に染めた提督は憮然とした顔に座っていた。一先ず生存を確認でき た安堵と、砲撃に巻き込まれたらしことの分かった不安が、ない交ぜになって胸を締め付けた。 「おい、貴様! 無事か」 走り寄りつつ声をかけると、片手を上げて首肯する。那智は提督のその仕草に一縷の違和感を覚えたのであった。 那智とて並大抵でない艦娘である。敵の状態を見極める目は非凡の域にあり、故に彼が無意識に庇った左腕の、その仔細な動きを察 知することは容易かった。 「見せてみろ」 すぐ側に寄った後、開口一番そう言った。引っ込められるより先に左手を救い取れば、痛みに眉を顰める彼である。 「転んで挫いただけだよ」 慌てた声音に弁解があった。だがそれは彼女の屈辱をより一層煽るだけの言葉であった。 ただでさえ戦闘以前から機嫌は悪かった。加えてこの結果、幾ら作戦の内に折り込み済みとは言え、眼前の光景には勘弁ならいもの があった。本棟は大破し司令も手傷を負い、とても防衛を成功させたとは言えない状況で、しかも後者に関しては本人に隠蔽する意思が あったらしいのだ。 「折れている。歯を食いしばれ」 返事を聞くより先に、外観よりずれていることの分かる手首を叩くようにして矯正する。途端、彼は不細工な呻き声をあげ、膝を付い て地面にへばった。 「医者の来るまで添え木しておけ。……気を遣うなら端から怪我なんてするんじゃない! 馬鹿!」 胸の中にわだかまる苛々がそのまま舌に乗った。治療を名目に彼をいたぶり、正論を武装してなじっても、気の晴れることはなかっ た。自身の不甲斐なさは怒りに置換され、罪悪感を覚える余裕さえなく、那智は悔し涙を見られないように早々に踵を返した。 提督はそういった心理の機微悉くを認知できた訳ではなく、だから心の準備を整える間さえ与えてくれなかった彼女に対しては、一 抹の怒りを覚えるのだった。 ようやく痛みの波が穏やかになりだした頃合、舌打ちしつつ顔を上げると艶やかな生足が視界に入った。 「あらぁ、提督。良い格好ですねぇ」 所々破けたアンミラ服を纏い色白の肌を煤に汚した龍田は、恍惚顔にそう言った。 「……沈んだ奴はいないんだろうな」 上体を起こしつつ問うと、頬に掌を当てながら嫌味たらしく、 「ええ。派手な囮のおかげでねぇ。……これ使います?」 彼女が差し出したのは、添え木代わりにということなのであろう。折れた槍の柄の残骸であった。丁度一尺ほどの長さがあり、確か に都合は良さそうである。 頷くと彼女は自身の服、切れ目の入っていた袖口を大きく破り、更に縦二つに裂いていった。露出した華奢なかいなが、月光にまざ まざと照らされる。 何よりもまず白さが際立った。透明なアクリル板を重ねてゆくと表面は次第に白濁してゆくが、彼女の肌の色味はそれを連想させる ものであった。骨ばった肘や滑らかな二の腕、肩口の僅かな膨らみ。腕のちょっとした造形が厭に艶かしく映えて、提督は意識の埒外に 生唾を飲み込んでいた。 「眼福だぜ」 童貞でもあるまいに晒された腕ごときに欲情したことが恥ずかしく、誤魔化すように言ちた。龍田は左手を取ると、 「壊死する前に落とした方がいいかしら」 一瞥くれることもなくすかさず吐き出し、ふふふと含み笑いを零すのである。警告は無論冗談の類であると分かってはいたが、それ でも尚心臓の縮み上がるほどの語気があった。居た堪れず、沈黙するより他にはなく、結局それから彼女が去るまで何一つ気散じな会話 のなされることはなかった。 およそ無聊を感じることができたのは何時ぶりのことであろうか。仕事場を綺麗に吹き飛ばされたことによって、彼はまったく何も やることがなくなってしまったのだった。艦娘たちは皆一様に入渠施設へ押しかけており、まさか男の出る幕もない。通りを歩くものも おらず、気を紛らす話し相手もいなかった。 ただただ座って海面を眺めるしかなかった。じわじわと血の巡る度に左手は疼き、その痛みによって思惟の世界へ旅立つ事も許されな い。極めて表面的な意識の中、提督は久しい退屈という感覚にどっぷりと身を浸したのだった。 それから一時間ほどの後、海波の合間から遂に第一艦隊の艦影が見えた。 流石に座ったまま出迎えるのも失礼に思われ、提督は億劫ながらも重い腰を上げた。岸壁の淵に立って手を振れば、ますます速度を 上げる彼女達である。言いたい事聞きたい事が山ほどあるのだろう。もうその立ち振る舞いから、逸る気持ちが肌にぴりぴりと察知さ れた。 旗艦であるから当然なのだが、まず岸に上がったのはあきつ丸であった。潤む眼を拭いながら走り寄った彼女は、その勢いのまま提 督の胸に飛び込んだ。それはロマンチックな邂逅という訳でもなく、ただ感情の爆発がそのまま彼個人に向けられたというだけの仕草 であった。腕は背に回されず、鎖骨の下辺りに握りこぶしが置かれるだけ。唇をわなつかせたまま、ようやく嗚咽交じりに発せられた 言葉は、しかし支離滅裂に過ぎていた。 「せっかく、活躍できたのであります! 自分、は。……あの、せっかくいい報告ができると、思ったのに! 何か、一体なにがあ ったのでありますか! 自分。あの、提督殿、はお怪我は、されて……あぁ! 自分は!」 そこから先、もう慟哭と差異の無い文言がが吐き出されるばかりであった。帽子の上から頭を撫でてやれば嗚咽はますます無様に大 きくなってゆき、もう提督も苦笑を漏らすより他に仕様がない。人目も憚らず彼女は彼の軍服に涙を染み込ませ続け、時折昂ぶってい る心緒を示すように胸をどんと叩いていた。 ぽつりぽつりとこの惨状の経緯を話しつつ、ようやく彼女とて気恥ずかしさを覚えるほどには心に静謐を取り戻した頃合。 「なぁ、あきつ丸」 そう呼びかけてみると、彼女は上目遣いに無垢な瞳を向けてきた。即ち今の状況がいかに危殆なるものか、自覚はないということだ った。提督は暗澹たる気持ちに嘆息を吐きつつ、加賀を伺い見ながら言った。 「いい加減、勘弁してはもらえないか。裸でくっつくのは」 小首を傾げた彼女は数瞬の後、自身の格好と彼の近さ。それから背後より投げかけられる嫉妬の怒気。それら全てを同時に知覚する のだった。唯でさえ白い顔をますます青く染め上げて、慌てて振り返り、加賀に弁解を始める。 生じてしまった亀裂に関しては、今更もうどうすることもできないのである。彼はその前途に失望するばかりであった。 3 激戦の翌朝、なによりもまず急がれたのはプレハブ小屋の建設であった。本棟の修理が終わるまで、まさかずっと業務を滞らせるわ けにもいかなかった。大本営からの査察があったのは明け方四時。それから六時間の後には、具体的な作業が始まり、簡易なユニット ハウスの建てられたのは更に二十四時間後のことであった。 提督といえば左手首の治療もそこそこに、先ず査察団の接待に追われ、彼らの帰った後には作業員の説明を拝聴し、ようやく荷が下 りたのは宵も更けに更けた時分であった。 近場にビジネスホテルの部屋を取ることができたのは幸運だった。佐世保の市民は避難指示のあった翌日というに甲斐甲斐しく働き に出ているらしい。普段通りに活気づく街の光景を目の当たりにすると、心の中に不遇を嘆いていた自身というものがなにやら矮小に 思われて、提督は独り徹夜明けの緩やかな思惟の中、恥入った。 部屋に入り、まず何よりも先にシャワーを浴びた。医者から禁止されていることではあったが、髪の毛のぱさぱさとした手触り、外 に露出していた肌の何か異様なほどの滑り具合。いい加減そういった自身の状況には勘弁ならなかったのである。 左手首の固定具にはビニール袋を被せ、輪ゴムを何重にも巻いておいた。 体を滑る湯は、たちどころ灰褐色に濁ってゆく。粘度も増したか、しばらくのうちに排水口も詰まり、時々シャワーを止めないこと には水たまりのできる有様だった。 思わず「やった、泥石鹸だぜ」と言ちた。独り後から面白くなってしまい提督はしばらく哄笑したが、そんな愉快もそう長くは続か なかった。一通り煤を洗い流した後体を拭いていると、烈々たる違和感がビニールの内より沸き上がってきたのである。 心臓の鼓動と連動して、骨からじくじく痛みだした。ベッドに飛び込めば、徹夜明けから労働した体である。眠気もあるし倦怠もあ るのに、その疼痛が現実に意識を引き留め続けた。 幸い時間はあった。結局痛みの引くまで寝付くことはできなかったが、それでも十二分以上の睡眠を貪ることはできた。 霧散しかけた意識の中で、彼は加賀の姿を幻視した。思えば帰還してより今まで一言も口を聞いておらず、しかもあきつ丸のことも あった。一抹の不安が胸の内に走るも体を起こさせるまでには至らず、結局そういった心緒もたちまち霞んでいってしまったのだった。 鎮守府に帰還したのは朝方六時。門戸を抜け、まずビニールシートを絆創膏のように被せられた、痛々しい本棟の姿が視界に入った。 それから小脇、スチール壁を四枚囲い袈裟掛けに上から支えのパイプを這わした、直方体の建屋が見える。例のユニットハウスなのだ ろうが、外観はもう結構なもので、すぐにでも執務を始められそうな雰囲気を放っていた。 「あの、お疲れさまです。ちょっといいです?」 近くを通った作業服の男に声を掛けると、気だるげに小首を傾げられた。 「これって、もう完成ですか」 「まだガスと電気と水の工事が残ってるよ」 「……電気は分かるにしても、水とガスですか」 「風呂トイレ付きだからねぇ。まぁまだしばらくできないが。……そうさな、午前中には終わるだろう」 「ありがとうございます」 踵を返しつつ、提督は感心の嘆息を漏らした。たったの一日で随分なものが建つようである。 また何をするでもない時間が生まれ、ひとまずは食堂に向かうこととした。朝食には少し早い時刻だが、自身の部屋というものの無 い現状、落ち着いて座ることのできる場所さえ限られていた。 食堂は本棟と廊下によって接続された建物であるが、艦娘宿舎との距離の兼ね合いによって奥まった箇所に鎮座していたために、砲 撃の被害を受けることはなかった。本棟の周りには鉄骨やぐらさえ組み立てられ始めている様子。中を通る抜けることはできないらし く、建物を大きく迂回するしかなさそうだった。 裏手に回ると艦娘宿舎からの渡り廊下、その柵壁に肘を置く人影が見えた。漆黒の服飾と、迷彩白粉を剥いでも尚血色悪い肌。あき つ丸は憂いの顔つきに、ずっと遠くを眺めるばかりである。 「おはよう」 十歩の距離にまで近づき声をかけると、彼女は大仰に背を震わした。それから見開いた眼にしばらく提督を見つめた後、苦々しく眉 を顰めたのであった。 「ごめん。何か邪魔したか」 「いえ! そんなことは、ないのでありますが……」 歯切れ悪く視線を反らしたあきつ丸は、痛む心中を堪えるように、握った掌を胸に置いた。思えば提督の帰還する時刻は知れていた。 このような所でたそがれていれば鉢合わせになるのも当然であるのに、そういった危機感をすっかり欠いてしまっていたのは失態だっ た。 どんな顔をして会えば良いか、思案していた矢先の邂逅だったのだ。彼女は焦燥と悔悟を混ぜ合わせた感情に、目も回る心地である。 「どうかしたか?」 それとなく尋常でない精神状態なのを閲歴したか、気遣う視線を向けられた。今のあきつ丸にとって、彼のそういった優しさという ものは良心を苛む鋭利な鋏であって、大きく広げられたその刃を前にしては、とうとう勘弁ならなくなるのであった。 懺悔するかの如くに頭を垂れ、彼女は重い口を開いた。 「提督殿に、謝らなくてはならないことが……」 「何?」 「あの、昨日加賀殿が、随分荒れていたようなのでありまして……。責任は、あの、不埒な真似をしてしまった自分にあるのではと ……」 「荒れてたって?」 「慟哭の声とか、何か物を投げつけたらしいような音が部屋からしていたのであります。その、なんとお詫びすればいいのか……」 最初要領を得なかった提督は、幾ばくか思惟の廻らした後、ようやく状況の概略を掴めたのであった。 加賀の荒れていたその要因は複合的なものであるはずだ。例えば先日の作戦の無力感や、鎮守府を襲撃されたというその精神的ショッ ク。無論、あきつ丸が中破の半裸で抱きついた事への嫉妬もあろうが、のみではない。嫉妬のみによって荒れたのだという謬見によっ て、彼女は許しを請うているわけだった。その認識のちぐはぐさのせいで、彼女が何を言わんとしているのか、その知覚が遅れたので ある。 微笑ましく、健気なように見えた。この程度のことでわざわざ首を差し出しに来るのはいじらしかった。煽られた嗜虐の心根と愛お しさ、それから唐突に思い出された自身の役職への侮蔑の念が複雑に絡み合い、提督の心情は甚だ混沌と濁ってゆく。 意識の埒外に腕が動いていた。彼は彼女の髪を軽く指で梳いた後、その体躯を引き寄せ胸に抱く。 「な、何をするでありますか!」 強気な声音に咎められるも、さして抵抗がないのは不思議だった。温い体温を感じつつ、提督は思いついた言葉をそのまま舌に乗せて いった。心の篭っていない言葉だが、しかし自身でも本心が何処にあるか、それさえ分からないのである。 「お詫びにこうさせててよ」 「意味がわからないのであります! こんなの誰かに見られたら……」 「また加賀が怒る?」 「そうでありますよ! 離してください!」 自身の言葉に心情が追いついたのか、彼女その段になってようやく体を捩り出し、手を間に差し入れて距離を取ろうとし始めた。背 に回していた腕を一気に解いてみれば、彼女は勢い余って数歩後ずさる。その頬には朱が差して、目には怒りの色が滲む。 「妻帯者なのでありますから! こういうことは自重していただきたい!」 意図せず、彼女の罪悪感を払拭できたのは僥倖だった。逃げるように食堂へと向かった彼女の背を見つめ、提督は独り様々思惟を廻 らしている。 朝食に加賀の現れることはなかった。 宿舎の空母寮に足を踏み入れ、一航戦の相部屋をノックしてみれば、顔を出したのは赤城であった。彼女が逡巡に視線を右往左往さ せているのを見て、提督も大方の事情は察せた。 「無理はするなよとだけ、伝えてくれる?」 微笑を作って言えば、安堵に目を伏せ頷く赤城だった。おずおずすまなそうな顔つきに戸を閉められ、提督はどこか心緒の片隅に寂 寞の風が凪ぐのを感じた。三行半を突きつけられた時の気持ちというのは、きっとこれと似たようなものなのであろう。そう、胸の内 に独り言ちる。 臨時の秘書に馴染みの那智を起用せず、あえてあきつ丸を指名したのは、つまり当て付けであった。貴様がずっとふてくされている ならばこちらもそれなりの手に出るぞという、伝える意思の無い脅迫だった。 信頼の契り、ケッコンという終端の価値が揺らいでいるのだ。提督職への絶望が、或いはただ守られるだけの存在である人類種とい うものへの失望が、指輪と頚木の境目を分からなくさせた。果たして加賀と結ばれたままでいることが、加賀自身の幸福に繋がってい るのか。愛情を植えつけられた娘が戦地に向かうという異常を、今の提督は容認しかねるのだった。 あきつ丸を連れ完成したユニットハウスを見物してみると、感動と落胆、その両極端の感情が一斉に迫ってくるようだった。たった の一日でここまでの物ができるのかと感心しつつ、やはり簡易な構造の口惜しさもある。 まず玄関を上がると、突然すぐ目の前に執務室が広がっていた。間仕切りも靴箱もなし。ただ部屋自体の大きさは本棟の物と遜色ない。 部屋奥の壁は片隅を半間の大きさにくり貫かれており、その先にはベッドと箪笥を置いてあるだけの小さな寝室があった。 トイレ付きシャワー室は後から連結されたような格好になっており、一度外に出ないことには中に入れない。湯冷めしない時節であ るのは、不幸中の幸いだった。 「プライベートルームと仕事場の間に仕切りがないってのは、なんか厭だね。ぞっとしない」 一通り見てまわった後、執務机に腰を降ろし、まず提督はそう言った。あきつ丸も首肯したがそれは何となしに首を動かしたのでは なく、本心からまったく同意しての仕草であった。 どこか危機感がある。朝方の彼との抱擁を意識せずにはいられないのであった。無論信用はしているし、間違いの起こることはない だろうと思われたが、それでも秘書艦に呼ばれた時よりずっと不安は尾を引いていた。 こういった感情の厄介なのは、俯瞰しているもう一人の自身が、その心緒を自意識過剰だと糾弾することであった。本能的な防衛の 感と義侠的な建前とが、胸の内に激しく衝突する。 何もないまま時が過ぎてゆけば、どちらがより勢を増すかは自明である。結局執務の終わるまで、軽いスキンシップさえないのであ った。 意外な心地に受け止めていたあきつ丸は、ふとしたらその感情も寂寞であるとか名残惜しさにも置換されそうで、独り頬を熱くした。 提督には相手がいる。何か特別な情を抱く事さえ憚られるべきであるし、ましてや背徳に悦を覚えるなど不品行も甚だしい。燈りかけ た官能の熱に厭悪と恐怖を覚えた彼女は、頭を振って湧き出てきた妄想を掃ったのである。 宵もどっぷりと更けてしまい、最早夜半と言ってもいい時分。書類の背をとんと叩き、提督は立ち上がった。 「それじゃあ、おやすみ。俺、シャワー浴びるから」 「あの、戸締りは?」 「べつにいいよ。めんどくさい」 それから着替えとタオルと輪ゴム、ビニール袋を持った彼は、颯爽と執務室を飛び出してゆく。 ぽつねんと部屋の中央に取り残された彼女は、しばしの逡巡に身を固くしていた。施錠しないというのはやはり些か無用心に思われ、 だが、まさかシャワーの終わるまで待っているのもいらぬ誤解を与えかねない。 本人が良いと言うのだから、もう関知せずとも責められる謂れはない。一分ほどの思考の後、そう結論付けた彼女は、壁に掛かる鍵 束から視線を外した。出口に体を向け帰路の一歩を踏み出し、だがその時、目の前に佇立していた人影が彼女を驚懼の面持ちとさせた のである。 玄関の敷居を跨ぐ加賀は、あきつ丸を見るなり眼を眇めた。 シャワーを終えて部屋に戻ると、執務机の椅子に腰掛ける幽鬼の如き加賀があった。普段サイドテールに纏められている髪も、今は ただ無造作に下ろされているだけ。うなだれたまま視線さえ寄越さず、膝の上の両手を見つめている。もしかしたら左手の薬指を凝視 していたのやもしれないが、本人以外には知りえないことであった。 何と声を掛けるべきか提督は判断しかねていた。別段喧嘩をしていた訳でもないのに、言いしれぬ気まずさが胸を締め付けるばかり。 下手な慰めは、寧ろ相手を辛くさせるだけである。無力感、自身の無能さへの屈辱というものは、提督とて経験した事だ。故に頭に 浮かぶ文言悉く口走ってはならないものだと裁定できたし、また何を言い掛ければ楽にできるのかも分かり得ないことだった。そして また、自身のそういった甲斐性の無さに失望してしまうのである。 どれほどか経ち、先に沈黙を破ったのは加賀だった。 「何も、何をすることもできなかったわ。私」 自嘲を吐く女性に向かってその言を否定するのは、こと気の置けない間柄であるならば、必ずしも正解の一手にはなり得ない。内心望 んでいる言葉を導く為の回りくどい布石であると、そう判断するのは早計に思えた。提督には、まさかあの加賀が矜恃を投げうち、浅 ましく女々しい手段に出るとも考えられなかったのである。 「どういう意味?」 彼は探り探り、問うた。 「ミッドウェーを攻略できたのは、あの陸の娘のおかげ。私たちだけでもっと早く攻略を済ませられたなら、鎮守府が壊されること もなかった。あなただって、怪我をしないでいられたわ」 唐突な懺悔にはあざとさを感じた。もしの話をする無意味さを、解していない彼女ではないはずだった。真意を測りかね、苛々が腹 底に沈殿してゆく。だがその後すぐ、ゆったりと向けられた彼女の視線によって、提督の疑問はたちまち氷解に至る。 彼女の瞳は怯懦を片隅に控える一方で、切望に燦爛としているのでもある。それを見、彼は彼女の今までの葛藤全てを閲歴したよう な心地となった。自身に求められている慰めが如何様なものか、ようやく知覚できたわけである。 それが勝手な思い込みでないことを証明するため、彼は加賀の側にまで近づくと頤をぐいと無理やり上向かせてみた。果たして示さ れた反応は従順なものである。視線を逸らし、唇をほんの僅か開いていた。諦観を装った渇欲が、表情の端々に滲み出た。 荒々しく唇を押し当てると、歓喜の悲鳴が耳朶にされる。自身の予測のまったく正しいことが分かり、提督は独り安堵と憂鬱を覚え ていた。つまり加賀の望んでいた慰めの実態は、辱めることによる懲罰であったわけである。 寧ろ自身が謗られるべきであるのに、罰を与えるのは躊躇われた。だがつまり同時にそれは、懇願を無碍にできる立場にもないとい うことなのである。唯でさえ役に立たない役職にあるのだから、彼女を慰藉する役目くらい全うせねばなるまい。キスに没頭しつつ、 提督はそう腹を据えざるを得なかった。 呼吸の暇も付かせぬほどに、彼女の口を嬲り続けた。舌根の吸われる度漏らされる声は、苦しげに切なく震えていた。 唇の端から漏れた唾液が顎の線を滑るまでになって、ようやく彼は体を離す。見れば酸欠と悦楽に表情を蕩けさせ、肩で息をする彼 女であった。 「脱げよ」 見下ろし、乱雑に言い放つ。加賀は狼狽に視線を滑らせながら、か細く赦しを請うた。 「こんな、場所では……。せめてベッドに」 「無理ならいいよ。別に」 一歩距離を開けると泣きそうに眉を歪ませ、彼女は提督の裾を摘んだ。 「わかり、ました」 手を引き立ち上がらせ、肩を押して突き放す。ぞんざいな扱いをする度、提督は罪悪感に苛まれ、己の行為の正当性を猜疑せざるを 得なくなった。加賀は口答えせず衣服に手を掛け始めており、意の合致している事は明白なのだが、恥辱に唇を噛む彼女の姿を見ると 心が締め付けられてならなかった。 髪を下ろした加賀は幾分か、普段より幼げな印象となる。馴染みの服の、全て床に落ちた今では年頃の女学生と見紛うばかりであっ た。鎖骨の凹を、はらりと毛先が叩く。 時々躊躇いの視線を寄こす彼女には、黙し嘲りの目を向けてやった。度に体躯をびくつかせ、おずおずと脱衣を再開するのは健気だ った。 普段より夜伽では被虐の立場になる加賀は、無意識的に羞恥を鍵として情欲を滾らせるようになっていた。明るい中ストリップをする のは初めての経験である。故に胸底の切なくなるほどの興奮が享楽され、提督の心情とは裏腹、辱めに悦びを見出していた。 ついに裸体を晒した彼女への、提督の指示は冷淡である。 「自分でやれ」 幾ら自身から求めた事といえ、その言葉は酷薄に過ぎる印象だった。加賀は抗議の声を上げようとするも、彼の仕草、その意図を察 した途端に寧ろより劣情を充溢させる。 提督は左手を差し出し、 「動かせないからな。仕方ないだろ?」 そう言いのけたのだ。 それはこの被虐の感の根源であった。自身の罪を視覚的に象徴する、服従の頚木だった。 裸である事の心細さがこの諦観の悦楽と合わさって、具体的な贖罪という目的が意識の表層に顕れた。目尻より零れた涙は悲観のそ れではなく、寧ろ昂ぶる悦のものであった。 「……はい」 震えた声音に、加賀は言う。 既にそこは濡れそぼり、指が動かされる度水音の跳ねるほどであった。左手の人差し指を噛みなんとか声を堪えようとするも、荒い 息遣いに混じって喉の震えは外へと漏れ出す。 「んっ……ぅぁ……」 我慢しきれずに漏れ出してしまう嬌声への羞恥が、何よりも胸を苛んだ。無論、自慰を見られているだけでも相当に辛いのであるが、 自分のものと思えない声を耳朶にした時の恥ずかしさというのは殊更、屈辱なのである。 生きたまま膾にされるような心地だった。快楽が体全体を突き抜ける度、その無意識の震えが自身の淫らさの証に思え、嫌気を覚え るのもまたしかし、悦楽と認知されるのである。同時に先の自嘲の心緒は性的なそれへと置換され、痛められれば痛められるほど癒さ れてゆくのだった。 落涙は止め処なかった。嗚咽交じりの喘ぎ声は、よほど無様に思われた。手折られ、踏み躙られた心の疼きが、もう性的な快味に直 結している。 終端はものの数分の内に到来した。 「も、もう駄目っ……です。んっ、ぁぁあッ!」 一際大きく体をびくつかせ、加賀はその場に頽れる。荒い息をつき、しじまに自身の喘ぎの響いた事へ羞恥を感じる余裕もないよう だった。 絶頂の余韻に、もう数刻前の自責も立ち消えになる。快楽に侵され蕩けきった微笑には、一片も昏い所は無かった。 放心していた加賀は、床の冷たい心地よさに意識を向けるばかりであった。だから何時の間にやら提督が背後に立っていたこと、そ の気配を察するのもあまりに遅く、今更危殆なる感覚を得たとてどうしようもないのであった。 背を突かれ、腰に手が這わされる。 「待って! まだ、待ってください提督!」 柄にもなく叫ぶようにして言うも、四つん這いの体勢にされては碌な抵抗もできなかった。加賀は容赦なく自身に進入してくる彼の 感触に、背筋も凍るような、莫大に過ぎる悦楽を無理やりに享受させられたのであった。 「い、いやぁッ! 待って……ていと、くっ……んぅ! ぁあっ、ひぐっ……ぅ」 振り乱した髪が背筋の窪みをさらさら滑り、肩口を落ちた房、その根元からはうなじの生毛が垣間見えた。肘の頽れる度、軽く尻臀を 平手に叩くと益々嬌声は大きくなった。 湿潤な感触が、彼女の興奮を生々しく伝播させる。眩暈にも似た快楽の中で、しかし提督は頭の芯に冷たい思惟を残していた。 彼女は慰められたのであろう。自責の念を性の悦びに塗り潰し、幾らかは救われたのであろう。だが一層、自身は胸の内に悔悟を沈 ませるばかりであった。不満とまではいかない僅かな苛立ちが、この陵辱の行為に転化されていった。 最初は彼女のためを思っての演技であった。今はもう、自身が虚偽の仮面を付けているのかどうかさえ分からないような有様だった。 暴力性に促されるまま提督は加賀を犯し続け、煮えた思考も何も情動の灰色に染まりきると、征服の証を吐き出しつくす。加賀の、 何度目かの絶頂の嬌声を聞きながら、提督は湧き出す自己嫌悪に眉を顰めた。 空母寮にまで加賀を送るその中途、つと気が付いたことがあった。傍らに彼女を連れた状況には詳細を確認できないその事実。否、 まだ予測としか言えないほどのか弱き事柄だが、提督の心はたちまち厭悪に揺れ動いた。 酷使してしまった加賀の体を労わる、その表面的な優しさは維持したまま、しかし思惟はすっかりその事だけに占有されてしまった のだった。別れのキスの最中さえ、考えに耽っていたほどである。加賀の背が戸の向こうに消え果るのを見届け、提督は憮然と踵を返 した。 寮の出入り口近く、厠の脇に彼は立った。 夜半の静けさの中に身を浸せば、たちまち予測の正しかったことが分かった。今このトイレの中、尋常の目的外に身を潜ませる者が ある。 おそるおそるといった風にひょっこり身を出したそれは、提督に気が付くこともなく自身の部屋への帰路を歩みだした。 「おい」 最低限の声量に呼びかけると彼女は大仰に背を震わせ、勢い良く面を向けた。色白の肌に、漆黒の服飾。この寮には似つかわしくな い小柄の体躯から、既に彼女が誰であるのかは察していた。そしてそれは、まったくぞっとしない予測を正しいものと裏付ける、何よ りの証左でもあったのだ。あきつ丸は眼を大きく見開いたまま、ただ硬直するばかりであった。 苛立ちを隠しもせず、歩み寄る。途端身を竦ませる彼女の細い腕を乱雑に掴み、提督は寮の出口へと向かった。 「い、痛いであります! 提督殿!」 流石に気を使ったのか、彼女が抗議の声を上げたのは外に出た後だった。無論懇願を聞き入れることは無く、彼は彼女の体躯を適当 な壁に押さえつけた。右手を顔の脇に置いて眇めた眼に見下ろせば、狼狽と恐怖の表情は益々その色を濃くしていく。 「お前、何時から見ていた」 あきつ丸の口から、短く小さい悲鳴が漏れた。 提督は嘆息を吐くと、彼女を侮蔑の視線に見据えた。この娘への憎々しさが、体中を遮二無二渦巻くようであった。よりにもよって あんな無様を、自身のこともそうであったが何より加賀にとっても堪えられない屈辱であ る筈だ。 慰めの為の睦みを第三者に見られるという含羞の怒りに、提督は苦々しく歯噛みする。 「あ、あの……提督殿」 「答えろ」 「ち、違うんであります。見る気はなかったのであります! ただ、あの……加賀殿と提督殿のことが、気になって……それで、隠 れていたら、あの」 「最初からずっとか」 「ぅ、その……申し訳、ありません」 壁を殴りたい気分であった。流石にそれを自重するだけの理性は残っていたが、代わりに意識の埒外から呪詛が零れだしていた。 「見損なったよ」 顔を見ることさえ勘弁ならず、提督は踵を返した。 ずっと、鎮守府を壊され時よりずっと引き摺っている惨めさがかつて無いほどにまで膨れ上がり、もう頭を破裂させそうなほどだっ た。自身は汚辱の極みにある人間なのだと、卑劣で無能なクズだと自嘲するたび、怒りの念が際限なく腹の内側をのたうつのだ。壊さ れた本棟や、加賀の切望に揺れた瞳、そしてあきつ丸の怯懦の表情がチカチカと目の前に燦爛とした。 振れた情緒の嵐の中で、彼はただ帰路の事だけを考えようとしたが 「提督殿!」 背後より迫る彼女の呼びかけが、無慈悲にもそれを妨げた。 無視しようと足を速めるより先、行く先に回りこむ彼女であった。 「提督殿! 待って欲しいのであります!」 「帰れ」 「あ、あの何とお詫びすればいいのか、分からないのでありますが……。その本当に悪気は無かったのであります! ただ自分は、 無用な事とは分かっていたのでありますが、しかし心配でもありまして……」 「帰れ! いいから帰れよ!」 荒らげた声が静寂を裂き、だが数瞬の後にはまた蕭々たるしじまに立ち戻る。たかだかこの程度のことで、年端もいかない娘に怒鳴 り散らす自身。それを俯瞰した気になって、益々提督は惨めさに胸を締め付けられた。 「ゆ、許してほしいので、あります……っ」 とうとう嗚咽を漏らし始めたあきつ丸は、彼の腕に縋りつくと落涙もそのままに懇願するのだった。 「なんでもするのであります。許してくださるならなんでもしますからぁ……っ。ぅぁ……ごめんな、さい。提督殿、どうか……」 「なんでもするのか」 「はいぃ……します! しますから、どうか……」 強引に唇を重ねたとき、だが確かに提督の心の梢には慰安の風が凪いだのだった。逃げる舌を掬い取り嬲り啜る度に、その狼狽の声、 反射的に捩られた体、反応全てに愛おしさを覚えるのだ。 十秒二十秒と経ち、彼女の方からもおずおずと舌が差し出されるに至った。互いに真意など読めはしない。だが共有された悦楽は確 かに二人を結び付け、また不貞の背徳を意識するような段ともなれば、もう行為に歯止めは利かなかった。 〈続く〉 → 提督×加賀・あきつ丸15-472 これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/129.html
「よい風ですね」 「ああ」 時刻はフタサンサンマル。 駆逐艦は寝静まり、大型艦は長い入渠のためにドックで寝静まった。 本日の出撃と執務仕事は終えたが、突如として現れた新たな出撃場所のおかげで ここ最近の執務の忙しさは増す一方だった。 加えてこの鎮守府の提督は決して勤勉と言えるようなタイプではない人間だったこともあり、 資源を倹約するという名目のもと明日は出撃を控えるつもりでいた。 上層部によると今度の出撃場所は一定の期間しか突撃できないとのことだが、 その期間は短くはないようなので、資源倹約という理由に納得してくれた。 数日ぶりに行う鳳翔との2人だけの宴を、夜空にぼんやり輝く三日月が出迎える。 鳳翔の持つ酒瓶や杯と、提督の持つ肴のシシャモをそれぞれ床に置いて縁側に腰掛けた。 もう執務時間外なので提督は帽子を執務室に置いてきており、頭には何も被っていない。 「ああ、全く楽じゃないね。船を仕切る仕事ってのも」 提督がぼやいた。 何気なく放ったそれに鳳翔は反応した。 「すみません。いつも苦労をかけてしまいまして」 「ああいや、それはこっちの台詞というものだよ。 出撃してこの鎮守府や船を守るだけで十分責務は果たせているというのに、 秘書艦やって小料理店やって、あまつさえこうして酒の付き合いもさせてしまっている」 「もう、全部私が好きでやっていることですから。 私には不満はありません」 鳳翔は提督に向けていた顔を、前面に広がる海の方へ戻した。 秘書の仕事は鳳翔以外のほとんどの艦にもやらせてみたが、 結局提督は鳳翔が秘書艦を務めることを一番に望んだ。 秘書の仕事を務められる艦は他にいくつもいたが、 提督はそういった艦の能力でなく、個性で鳳翔を選んだ。 鳳翔には泰然自若という言葉が似合う。 鳳翔が醸し出す穏やかな空気と安らぎを気に入り、ここが自分の帰る場所であり、 第一の故郷が自分の生まれた土地ならば、第二の故郷が鳳翔の傍らなのだ。 つまるところ鳳翔に自分の仕事を手伝ってもらいたいではなく、自分の傍にいてほしいだけ。 鳳翔もまた、自分や他の艦がとても大事にされていると実感しているからこそ、 この提督に不満を持たずについていく気になる。 流れ行く日々は決して楽ではないが、 この提督にとって傍にいてほしいということがよく分かるから喜びを感じる。 「お酌しますね」 少しの沈黙ののち、鳳翔が動いた。 何も言わず差し出された杯に並々と透き通った酒を注いだ。 それを煽り、そこそこの辛さを舌で味わい、塩焼きにされたシシャモに頭からかぶりつく。 「あーうまい」 喉にアルコールを通してゴロゴロした声で感想をこぼした。 適当に塩をまぶして焼いただけでも、 肴に分類される料理なら適当でもそれなりに美味くできるのが利点だ。 普段料理をしない提督でもこの程度の知識は持ち合わせていた。 料理なら『趣味で』店を営む鳳翔にさせればいいはずだが、 提督が鳳翔に自分の作ったものを食べさせてやりたいと自ら行った。 「鳳翔にもお酌してやろう。ほら」 箸を置き、鳳翔の杯にもこちらから酒を注いだ。 鳳翔は何の癖か目をつぶってそれを流し込んだ。 普段口にする燃料とは似ているようで違う液体は鳳翔に飽きを与えさせることはなかった。 「肴も俺が食べるだけじゃなくて、食べてもらいたくて作ったんだよ」 「まあ。……ではいただきますね」 感嘆し、もう一膳の箸を取り、控えめに齧った。 ほどよい塩気とシシャモの卵の食感は味覚を楽しませてくれた。 2人だけの静かな宴は細々と続いた。 時が経つにつれ風は寒くなっていったが、 それに対抗するためお互い寄り添った。 先に肴がなくなったが2人ともその場から動こうとすることはなく、 酒を飲み交わすだけになった。 やがて酒さえもなくなったときは、瓶をいくつか床に並べていた。 2人とも体は温まり、むしろこの夜の風が涼しいと思えるほどだった。 提督の肩に頭を預けていた鳳翔はゆっくりと頭を起こした。 「……提督」 ぽつりとつぶやいただけだが、提督は確かに聞き取った。 それが合図となった。 「……いこうか」 「……はい」 泥酔しているわけではないので、立ち上がることは困難ではなかった。 そのまま2人は片付けもせず肩を抱き合ってその場を去った。 執務室のさらに奥にある提督専用の仮眠室の鍵を締めた。 まさか艦娘の使う仮眠室で行うわけにもいかない。 こじんまりした畳の部屋には布団が一枚敷かれているだけだったが、それで充分だった。 布団に彼女を寝かせた。顔が少し赤いのは酔ったせいか、これから行うことに恥じらいを感じるせいか。 別に抱くのは今回が初めてというわけでもないのに、彼女はこのときになるといつもこうだ。 しかし、それに加えて顔に少しの怯えを現した初めてのときから考えると、全く変わっていないわけではない。 回数を重ねると彼女の顔や体から怯えはすっかりなくなった。 今ではこうして完全に体を委ねてくれるようになったところに、征服感を感じる。 上から両手をついて覆いかぶさっていたが、いい加減欲求を満たすべく顔を近づけていった。 彼女は静かに目をつぶり、抵抗もなく自分を受け入れてくれた。 唇を重ねた。ただ数秒重ねるだけだが、彼女の唇の柔らかさが充分に感じられた。 一旦離すがこれだけで満足するはずもなく、何度も口付けを繰り返した。 欲求は収まるどころか膨らみ、その気持ちが口を離す代わりに鳳翔の衣服を脱がせる行動を起こす。 肩を縛る紐をほどき、絹擦れのシュルリとした音が自分を焦らせた。 毎日行っているわけではないためそこそこ欲求も募らせていたのだ。 「……焦らなくても、私は逃げませんよ」 鳳翔は手のかかる子供を見るような声でそう言った。 逃げる逃げないの問題ではない。 早く、鳳翔を味わいたいだけなのだ。 いくらこういうことに慣れようとも、鳳翔を愛しく思うこの気持ちが廃れない限りは 恥も捨ててはしたなく求めるだろう。もちろん廃れるなんてのは考えられないことだが。 しかし逸る気持ちを抑え、驚かせないようゆっくりと和服を開いた。 皆から年長者として慕われたにしては華奢な肩が顕わになる。 露出度の低い和服に隠された体は日焼けなどしていない。 駆逐艦娘からお母さんのようだと比喩されたにしては小ぶりな、 下着に隠された膨らみが和服から解放される。 華奢な体にはちょうどいいくらいだ。 同じように袴も脱がせ、袴を顕わにした。 こちらも下穿きで隠された下半身が姿を見せた。 もったいぶって、あまりそういうところからではなく、お腹や太股を撫でたりする。 夢中になってて何も言えないまま手を動かしていると―― 「……もう綺麗だとは言ってくれないのですか?」 「そんなことはない。飽きないのなら何度でも言おう。 足も、腹も、胸も、手も、顔も綺麗だ」 普段の調子ならこんなこと吐けない。 酒の力は偉大だ。羞恥心をこうも崩してくれる。 自分は素直じゃない。愛しい人に想いを伝えるのも一苦労だ。 鳳翔は顔を綻ばせた。いつもよりも笑顔成分の乗った笑みに加えて赤らみも付与される。 自分はこの顔が好きだ。ぼうっとなってくる。 すべすべと太股を撫でていた右手も左手と同じ胸へと伸ばす。 胸部の下着を上へずらした。外すのは煩わしい。 小ぶりだと言ったがお椀のようにしっかりとした形で 女性の象徴を主張しているそれを撫でたり揉んだりしていく。 「ん……ぁ……」 しばらく続けたところで胸を揉んでいた左手を止め、 頂点に口をつけて緩くちゅうちゅうと吸う。 まるで赤子のような行為だが、このようなプライドも捨てた行動を取れるのも鳳翔の前だけだ。 柔らかくて、鳥肌立っているのが面白い。 「うううっ、んん……」 まあ、この程度の責めなら口を閉じて嬌声を抑えることも可能か。 ならばと今度は下のほうを口で責めることにしよう。 下穿きを下ろし、まだ濡れていない秘所を自らが濡らすべく顔を近づけ舌を伸ばした。 「あっ! 提督……」 彼女は今どんな顔をしているだろう。 しかし余計なことを考えずに集中して秘所を味わう。 かすかな嬌声を拾いながらそれを味わい、秘所を責めることを続ける。 やがてそこは自分の唾液とそこから出てきただろう液体で濡れることになった。 出口すぐそこまで流れてきたそれを舌で掬い取っては味わって催促するように舐め上げ、掬い取っては舐め上げ……。 「んぁ……、ああ……、はあ……、はあ……」 「はあ……ぁっ!?」 何も言わずに両手の親指で目いっぱい広げ、舌をそこに沈めていくと小さく驚きの声をあげた。 しかし構わず沈めていく。愛液が奥のほうから分泌されてきているのが分かる。 れろれろ。くちくち。 「あっあっ、て、いとく……ああっ」 「何?」 くちゅくちゅくちゅ。 「た、足りません……もっと……」 ならばと唇を完全にそこに密着させ、吸い上げにかかった。 ずずっ。 「ああっ!」 じゅるじゅる、ちゅるるるっ。 「あっ、いい、ですっ、ああ……」